淡路島南淡町産ハマチは稀に見る

関東ではイナダ、関西ではハマチ

ハマチ

徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)の子供の頃、父親が食べていた刺身は圧倒的にハマチの、だった。ときどきマグロだったことがあるが、キハダマグロだろう。ボクがお使いで買いに行っていた限りでは、近所の魚屋で刺身というとハマチだった。
ちなみに養殖ハマチ(瀬戸内海の養殖ブリは若魚まで生育させるものから始まっている)だった可能性もあるが、わからない。
四国でも紀伊水道・瀬戸内海周辺はハマチ圏といってもいいと思っている。瀬戸内西部は海域が広く暖流の流れ込みもあるので、瀬戸内海でも周防灘・伊予灘と呼ばれている地域はハマチ圏ではない。
なぜハマチ圏と呼ぶのか? というかボクの勝手な命名ではあるが水温が冷たくしかも紀伊半島という壁があるので、ブリの成魚であるブリの回遊域ではないからだ。徳島魚市場で会った老人は、大型の「ブリは紀州や九州からくるけんど、徳島はメジロ(5〜7㎏くらいまで)までじゃろな」という。
1960年はじめまで地方では鮮魚流通は比較的広域ではなかった。特に徳島県吉野川流域など徳島県南部太平洋側よりも紀伊水道に面した小松島市以北、香川など瀬戸内海の魚貝類の方が馴染み深かったようである。
魚貝類を調べるようになり、なぜ淡泊でうま味のないハマチサイズ(体長40cm前後で、関東ではイナダ)を自分の親世代が好んで食べていたのか、不思議だった。

脂が皮下に層を作り、身を曇らせている

ハマチの身

その謎は兵庫県明石からきた同サイズを食べ、その実力を知り解けた。脂が乗っている上に、うま味豊かなのである。明石海峡を瀬戸内海に抜けるのは春になってから。それ以前は紀伊水道にとどまっているのではないか。この寒い時季から春にかけての紀伊水道・瀬戸内海のハマチは市場で見つけたら見逃せぬ存在となっている。
さて八王子総合卸売協同組合、舵丸水産にきていたのが、兵庫県淡路島南淡町の、ほぼ1㎏、体長40cmのハマチである。
当然活け締めされたもので、見た目にもきれいである。1960年代の海水温は今よりも冷たかったので、紀伊水道にハマチが入ってくるのはもっと遅かったのかも知れないが、まさに徳島県でもっとも食べられていたハマチそのものだと思う。
そんなに丸味を感じなかったので、期待しないで買い求めてきた。
三枚に下ろしてびっくりした。皮下に厚い脂の層があり、まるでブリのような脂の乗り方なのだ。10㎏前後のブリとの違いは身に混在する脂の白が霜降り状ではなく、曇りガラス状であることだ。

ご飯の甘さ以上に甘味を感じる

ハマチの刺身

味見して、脂の口溶け感がして甘いので昼ご飯のおかずに食べた。
米の糖質にハマチの甘味とうま味が合わさると最強としかいいようがない。
ちなみにちゃんと食感というか身の弾力も楽しめるのである。
これは淡路島南部、沼島などの漁師さんの活け締めの技ゆえである。
過去に関東三浦半島の毘沙門のイナダ、明石のツバス、ときてこの暮れは南淡路のハマチが取り合いになる、かも。


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