今秋の初八角でいろいろ

見た目は不気味だけど、こーんなにおいしい魚はいない

トクビレ

今では高級魚として、プロの間では認知されている八角(トクビレ)も1990年前後くらいまでは、だれも知らないといった魚だった。もちろん今でも一般的な知名度は極めて低い。ちなみにプロでも標準和名のトクビレを知っている人は少なく、関東ではもっぱら八角(ハッカク)で売られている。
本種は広い意味でのカジカの仲間であると言っても、カジカ自体が超がつくほどマイナーなので、無意味だろう。トクビレ科は北太平洋・太平洋にいる体長50cm前後の魚で、特徴は鱗が硬い板状になり、棘が無数にあり、細長いことだ。
背鰭・臀鰭の大きい雄など正面から見ると怪鳥そのもので、見た目は不気味だが、脂が豊かで最近の嗜好に合致している。一度食べたら病みつきになる、そんな味の魚でもある。
種としてのトクビレを知ったのは学生時代だが、食用魚として認知したのは1978年の『北の魚歳時記』(達本外喜治 北海道新聞社)によってだ。昔は漁で揚がっても廃棄されていた。著者は大正2年(1913)生まれで生家は魚屋だった。本種は売れない魚のひとつで、子供の頃から食べていたともあるので、細々とは食用になっていたのだと思う。本書の出た1970年代後半に、酒亭で本種が食べられるようになり、軍艦焼きも登場していたとある。
1980年年代後半に築地場内で手に入れたときは、まさか都内で食用として売られているとは思わなかったので、飛び上がって喜んだ記憶がある。こう言った点では東京市場築地(現豊洲)は早いのである。
流通するトクビレ科は基本的にトクビレだけで、後はイヌゴチとサブロウが流通するが非常に希である。基本的にはトクビレ科唯一の食用魚だ。
ただしイヌゴチ、サブロウはとてもおいしい魚だ、ということもお忘れなく。

素揚げは尾に近い部分の細さ故の料理だ

トクビレの素揚げ

八王子総合卸売協同組合、舵丸水産で北海道釧路産トクビレ(40cm SL・413g)を買う。これが今季初のトクビレである。もう立冬を過ぎているので、秋に盛期を迎える魚としては遅すぎる初物でもある。
久しぶりなので、みそ焼きと刺身は外せない。問題は尾に近い部分である。これを前回、素揚げにして食べている。非常においしかったものの、揚げ方が中途半端で皮ごと食べることができなかった。今回はじっくり二度揚げにすることにした。
尾に近い部分をぶつっと切り取り、水分をていねいに拭き取る。
そのまま低温の油の中に投じる。
ころころ転がしながら火を通し、中温にしてまたじっくり揚げて取り出す。
仕上げに高温にして揚げきる。
包丁で真半分に切り、振り塩をして出来上がりだ。
トクビレでいちばんうまいのは皮かも知れないと思っている。ただ焼いても煮ても皮は甲殻類のような風味がするだけで食べにくい。
これを時間をかけて揚げることで、皮をさくさくにしたのだ。
まあ、食べてもらうしかないが、皮の甲殻類であるエビなどに似た風味とさくさく感、身の脂が半分溶けてまだ固まりきれていない内の濃厚なうまさで、猛烈ウマスギである。

ハッカクの刺身は意外にあたらしい味

ハッカクの刺身

ハッカク(トクビレ)の刺身は今や食費地でも当たり前の味になっている。
これも高度成長期くらいからの脂嗜好で大いに受け入れられた新しい味である。
昔はこの脂ぎった味が嫌われたのである。
この舌の上で溶け始める脂の甘味に、魚らしいうま味もある。
今や料理店で食べると値段でびっくりという人気振りである。

肝みそ焼きの焼いた香りからして御馳走

ハッカクの肝みそ焼き

肝みそを作って焼き上げる、のは北海道で生まれた軍艦焼きの切り身バージョンである。
表面だけ流水で洗い、三枚に下ろして切り身にする。
肝・みそ・みりんを合わせてねっとりするくらいまでたたいておく。
切り身を8分通りまで焼き上げた上に肝みそを乗せて焼き上げる。
酒の肴にしても抜群だが、白いご飯に乗せて食べたら、箸が進んで困ると思う。


関連コンテンツ

サイト内検索

その他コンテンツ

ぼうずコンニャク本

ぼうずコンニャクの日本の高級魚事典
魚通、釣り人、魚を扱うプロの為の初めての「高級魚」の本。
美味しいマイナー魚介図鑑
製作期間5年を超す渾身作!
美味しいマイナー魚図鑑ミニ
[美味しいマイナー魚介図鑑]の文庫版が登場
すし図鑑
バッグに入るハンディサイズ本。320貫掲載。Kindle版も。
すし図鑑ミニ ~プロもビックリ!!~
すし図鑑が文庫本サイズになりました。Kindle版も。
全国47都道府県 うますぎゴーゴー!
ぼうずコンニャク新境地!? グルメエッセイ也。
からだにおいしい魚の便利帳
発行部数20万部突破のベストセラー。
イラスト図解 寿司ネタ1年生
イラストとマンガを交えて展開する見た目にも楽しい一冊。
地域食材大百科〈第5巻〉魚介類、海藻
魚介類、海藻460品目を収録。