上品な白身なので、メガネハギは魚すきがいい

全身鎧をまとったような姿をしている


モンガラカワハギ科であまり大きくならない種類を沖縄では総称してフクルビなどという。今回の主役、メガネハギは本来は熱帯・亜熱帯の魚で、沖縄県を代表的するフクルビである。
フクルビはどの種も同じようなところにいるのだろう。沖縄の漁港の競り場に、ツマジロモンガラなどなどとともに小山をなして並んでいる。
昔から食用としている地域は沖縄県、鹿児島県の奄美、小笠原くらいだ。
本種は東京都島嶼部で見る限り、本来の生息域、小笠原から伊豆諸島に北上してきている。
これに困っている人達がいる。釣り師たちである。狙いはシマアジとかウメイロ、アオダイなのに真っ先に落とし込んだ餌にたかるのは、このメガネハギや同じくモンガラカワハギ科のナメモンガラなのだ。
釣り師にとってもやっかいだが、普段モンガラカワハギ類など見たことのない料理人は、この硬い皮でぬめぬめしている魚に、もっと困っている。
我がサイトでは、このモンガラカワハギ類(亜目)を「皮剥ぎ魚」としてまとめている。鱗を引くのではなく皮を剥くからだ。たとえば同じモンガラカワハギ類(亜目)カワハギ科のカワハギ、ウマズラハギも「皮剥ぎ魚」である。
ただ、カワハギ科の魚の皮は剥きやすいが、モンガラカワハギ科の皮を剥くのはたいへんである。力がいる。4、5尾も剥くと頭部に血が上って顔が赤くなってくるほどである。
昔、沖縄本島、泡瀬で巨大なゴマモンガラを一気にべりっと剥いている筋肉隆々の若い衆に出会っているが、要するに力がないと大型のモンガラカワハギ類はおろかフクルビすら剥けない。
剥いたらそこにあるのはくせのない赤みがかった白身だ。ただ、見た目は悪くないが、身(筋肉)に味がない。おいしく食べるためには工夫がいる。

白身ではあるが赤みがかっている


さて、木曜日、八王子総合卸売協同組合、マル幸のクマゴロウが銭州で釣り上げたメガネハギをくれたものの、やはりこのうんと硬い皮を考えるとなかなか下ろす気にもなれない。
翌日になって、えいやー! とかけ声をかけて下ろす。硬すぎる角を出刃でとんと落とし、各鰭をそぎ落とす。首筋に包丁を入れて、あとはがんばって剥きあげる。
さて、外気温16度で、鍋びより、なので鍋にする。
剥きあげた胴体を、すっとんとんと適当に切り、振り塩をする。
暫し待つと水分が出てくるので、拭き取って、湯に落とし、氷水に放って霜降りにする。

甘辛い味に玉ねぎの甘さ、そしてくせのない白身


水分をきったら鍋の主役の出来上がりだ。
いかな振り塩で水分をきっても本種の身には味がない。
そこを補うのがだしと調味料である。
今回は煮干しだし(ほとんど煮立たせないでとったもの)と酒・醤油・砂糖の、割り下鍋のつゆだ。味がない魚なのでだしは欠かせない。
これを糸こんにゃくと野菜、特に「魚すき」に絶対不可欠の玉ねぎと煮る。
上品過ぎる魚には味をプラスすることが肝要なのだ。
ことこと煮ながら食べると、結構イケル味だ。
上品で淡泊な白身の鍋は調味料の味次第ではあるが、そこそこ魚らしい味も楽しませてくれる。一味唐辛子が合う。
熱燗が合うな、と思いながら禁酒中なので、こいつをおかずにご飯を食べた。
おいしい魚だと思いながら、問題はモンガラカワハギ類を下ろすのが下手くそな自分にあり、と気がつく。


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