ボラ

ボラの生物写真

60センチ前後になる。体は細長い。頭部が平たく、目に脂瞼(脂肪の膜)がある。鱗は大きく硬い。脂瞼(しけん)という脂の皮膜が目に発達する。

魚貝の物知り度 ★★
これは常識
食べ物としての重要度 ★★
地域的、嗜好品的なもの
味の評価度 ★★★★
非常に美味
分類
顎口上目硬骨魚綱条鰭亜綱新鰭区刺鰭上目スメグマモルフ系ボラ亜系ボラ目ボラ科ボラ属
外国名
Flathead gray mullet
学名
Mugil cephalus cephalus Linnaeus,1758
漢字・由来
漢字 鯔。
由来・語源 「鯔」は音を「し」といい、色の黒いことを表す。本種の色が黒いために当てられた(要約)。『和漢三才図会』(寺島良安 正徳3年/1713 東洋文庫 平凡社)
■ 漢字「鯔」はイナとも読む。イナはボラの若魚、稚魚で田にも入ることからだろうか。
■ 「『角笛』に似ているところから、中国の胡語〈はら〉が転じて、わが国語〈ぼら〉になった」。
■ 「ほばら(太腹)が転じて」、「掘るの意味で、ボラは頭を泥に突っ込んで餌を食べるから」
■ 成長により名前が変わる出世魚。地方によって多少違っている。
2〜3センチのものを「ハク」、10センチくらいまでを「スバシリ(魚へんに走る)」、5〜18センチを「オボコ」、10センチ〜25センチを「イナ」、30センチ〜40センチを「ボラ」、40センチもしくは50センチ以上を「トド」。「トド」を「カラスミボラ(唐墨ボラ)」ということもある。
■幼魚を「江鮒」とも。
■ 古名に「クチメ」、「ツクラ」、「シクラ」。
「ハク」、「スバシリ」。茨城県霞ヶ浦で揚がった全長10cm以内の幼魚。
「トド」。愛媛県宇和島市の漁港に揚がった3kg前後のもの。
地方名・市場名
イセゴイ/『勢陽五鈴遺響』(安岡親毅 1833)に「伊勢鯉(イセゴイ)」
クロメ(黒目)/佐賀県鹿島市。メナダをアカメ(赤目)という。
シロメ/石川県七尾市七尾魚市場
ナヨシ/三重県尾鷲市(岩田昭人)
ミョウギチ/三重県尾鷲市(岩田昭人)
アシノミ、アマボラ、イセゴイ、イセシロメ、イツサイ、イナッコ、エビナ、エビナゴ、エフナ、エブナ、オオシママワリ、オオボラ、オボロ、カネウチボラ、カラスミボラ、カワボラ、カンズカ、キララ、ギンコ、キンビシコ、グイナ、クロメ、クロメゴ、ケラナゴ、コイナ、コチヨボ、コッテボラ、コッテブラ、コッブラ、コブラ、サクシ、サンザイ、シゴイ、シバ、シバシリ、シママワリ、シュクチ、シロメ、シロメボラ、シンコ、スクチ、スバ、スボオ、スバコ、セイゴ、チクラ、ヂゴイ、チョボ、ツクラ、ツボ、ヅボ、ツボウ、ツボオ、ヅボオ、テコロボ、デコロボ、デンブク、トオザイ、トオリボラ、トド、ナイシ、ナタネボラ、ナヨシ、ナンシ、ニサイ、ノボコ、バイ、ババ、ヒカリコ、ブラ、、ボラコマクチ、ミョウギチ、ミョウゲメ、ミョウキチ、ミョギチ、メウギチ、メジロ、メジロボラ、ヤチミコ、ヤチミゴ。
【幽門部】
ヘソ/三重県尾鷲市
ウス/徳島県徳島市
「ヘソ」、「ウス」。消化器官の幽門部のこと。
「ウス(臼)」。徳島県徳島市『徳島中央卸売市場』で見つけた幽門部。

概要 ▽

生息域

沿岸の浅場、河川汽水域、淡水域。
オホーツク海をのぞく北海道〜九州南岸の日本海・東シナ海・太平洋沿岸、瀬戸内海、種子島・屋久島、琉球列島、伊豆諸島、小笠原諸島。アムール川河口、サハリンのオホーツク海沿岸、千島列島南部の太平洋岸、朝鮮半島全沿岸、台湾北部・西部・南部、中国遼寧省〜海南島・トンキン湾、ベトナム沿岸。北緯51度〜南緯42度の全世界の海域(熱帯アフリカ西部〜モロッコ沿岸を除く。熱帯海域には少ない)

生態

産卵期は10月〜1月。秋になると黒潮の影響のある暖かい場所に回遊、産卵する。
低層に沈積した微生物や藻、原生動物、有機性のデトリタスなどを食べている。

基本情報

ボラ科の魚類は世界的にも重要な食用魚だ。国内のボラ科の魚ではボラ以外にメナダがいる。ボラ同様に利用されるが、メナダは比較的寒冷な海を好み、ボラは暖かい海域にしかいない。汽水域、内湾に多い。
知名度の高い魚ではあるが現実には超がつくほどのマイナー魚。また未利用魚としても深刻な状況にある。
今や安い魚の代名詞だが内湾が汚染される高度成長期以前までは高級魚のひとつだった。冷蔵庫のない時代に淡水で生かすことができ、上品な味わいで汁物、洗い、煮つけなど、大きな湾を抱える地域では重要な食用魚ともいえる。昭和、高度成長期以前までは千葉県内房浦安沖などでは養殖も行われていた。
出世魚のひとつで、生まれたばかりのハクから、産卵に向かうトドまで食用として親しまれている。
秋から冬にかけて南に産卵回遊する。この卵巣で作るのが「日本三大珍味」のひとつ唐墨。中国で作られる墨に似ているところからこの名があり、塩漬けしてじっくり干し上げたもの。独特の風味があり、非常に高価である。越前の海胆、三河のこのわた(海鼠腸)とともに日本三大珍味のひとつだ。またボラの「へそ」と呼ばれる胃の幽門部も珍重されている。

水産基本情報

市場での評価 寒い時期に関東では千葉県などから入荷してくる。非常に安い。卵巣は秋から新年にかけて入荷してくるが、非常に高価なもの。幽門部も地域によっては単独で流通する。
漁法 刺し網
主な産地 長崎県、兵庫県、千葉県、愛知県、大阪府など
「卵巣」。東京都築地市場で毎年恒例のように仲卸に並ぶ卵巣。大きいものの方が高い。

選び方・食べ方・その他 ▽

選び方

触ってしっかり張りのあるもの。また黒っぽいものの方がよく、白っぽくなったものは古い。

味わい

旬は秋から冬。
大小での味の差は少ないが、大きいほど脂がのっている場合が多い。下ろすときには内臓に泥を噛んでいることがあるので注意が必要。
鱗は硬く大きいが取りやすい。皮は厚みがありしっかりしている。骨はやや硬め。
血合いが赤く、透明感のある白身。死んで時間が経つと白濁する。熱を通しても硬く締まらない。
あらなどからいいだしが出る。
生息場所によっては泥臭い個体がある。

栄養

寄生虫

食べ方・料理法・作り方

料理法
本体 生食(洗い、刺身)、汁(鍋物、みそ汁)、焼く(塩焼き、祐庵焼き、魚田)、煮つけ(みそ、しょうゆ)、ソテー(ごま油焼き)、揚げる(唐揚げ)
へそ 焼く(塩焼き)、生食(たたき)、炒め物、煮る(煮もの)
ボラの洗い洗い 。ボラは生で食べて、非常に美味。これは定番中の定番である洗い。そぎ切りにし、氷水のなかで洗うと、切り身のなかからアデノシン三リン酸が失われ、ぎゅっと縮む。食感のよさが涼しさを呼ぶ。
ボラの刺身刺身 脂ののったものは刺身にしてもよい。微かに泥臭みを感じたらコチュジャン酢で食べると美味。コチュジャンと醸造酢を合わせたもので、好みでゴマ油を加えてもいい。
ボラのちり鍋ちり鍋 クセのない上質の白身で鍋材料としても優れている。身離れがよく、ほどよく繊維質。いいだしも出る。
ボラの魚田魚田 ボラの田楽(みそ焼き)である。素焼きしたものにニンニクを混ぜ込んだみそを塗って焼き上げている。
ボラの塩焼き塩焼き 柑橘類などをしぼって食べる塩焼きはなかなかのもの。ショウガ醤油やゴマ油をかけてもいい。
ボラのみそ煮ボラのみそ煮 やや甘めのみそ、みりん、酒で煮込んだもの。冷えても美味しい。
ボラの煮つけ煮つけ しょうゆ、酒、ざらめ糖で煮つけて、仕上げにしょうがの搾り汁をたらしたもの。煮ても硬くならず、身自体にも味わいが豊かで美味だ。
ボラのごま油焼きごま油焼き 薄く小麦粉をまぶしてごま油でソテー。コチュジャン、酢、砂糖、煮きり酒、昆布だしを合わせたたれをかけたもの。
ボラのへそのたたきへそのたたき 幽門部である「へそ」の表面をあぶって切りつけたもの。しょうがとすだちで食べたが実にうまい。
ボラの塩焼きへその塩焼き 単に塩焼きにするとコリコリし、しかもほどよい旨みと甘みがあってうまい。佳肴である。
ボラのへその炒め物へその炒め ボラの幽門部である「へそ」をニンニク風味で炒めたもの。
ボラのへその山椒煮へその山椒煮 山椒との相性がいい。煮すぎると硬くなるので、ある程度浅く煮て、鍋止めにする。

好んで食べる地域・名物料理

産後に食べる 島根県安来市広瀬町比田地区。産婦(出産直前、直後の女性)には「うす(臼)」のある魚を食べさせるとよいといって、鯔(ボラ)などを食べさせた。
ぼら雑炊 雑炊ではなく、ボラの炊き込みご飯。ボラをゆでて、ゆでた水で還元した米にほぐしたボラの身を混ぜて炊く。もしくはボラの身を入れてご飯を炊き込む方法がある。ねぎやにんじん、油揚げなどを入れる。[蟹江町]
寒い時期に鍋材料を買いに行くと、「はげかぼら」と言われた。カワハギかボラが寒い時期を代表する鍋材料だった。[徳島県美馬郡貞光町南町(現つるぎ町)]
いなまんじゅう 愛知県海部郡蟹江町。いな(ボラの若魚)の内蔵と中骨を口から出し、代わりにあん(ぎんなん、しいたけ、麻の実、ゆずの入った練りみそ)を入れて焼き上げたもの。[いなまん 愛知県海部郡蟹江町]
甘みそにはぎんなん、生のしいたけなどが入っている。
ぼらちゃず 「ボラの茶漬け」のこと。みりん、酒、砂糖、しょうゆなどでタレを作る。切り身にして素焼きし、たれを塗り、また数回焼く。これをご飯にのせてお茶をそそぐ。[石川県穴水町、能登町]『聞き書 石川の食事』(農文協)
ぼらの色づけ ボラの照り焼き。三枚に下ろして5〜6等分したものを素焼き、たれを塗りながら焼き上げる。たれはしょうゆ、砂糖、酒、甘酒などで作る。[石川県金沢市]『聞き書 石川の食事』(農文協)
ぼら飯 ボラを水洗い。適宜に切り、しょうゆに漬け込んでご飯と炊き込んだもの。野菜は里いも、にんじん、ごぼうなど。ご飯を炊くときに中骨の部分を入れておくと味がいい。味つけは漬け込んだしょうゆだけでもいいが、酒を加えた方がうまい。[香川県東部『聞き書 香川の食事』(農文協)]
ぼらと大根のだいだい酢のなます(ぼらのなます) ボラを三枚に下ろして薄き切り、塩をする。大根、にんじんはせん切りにして合わせて塩をしておく。塩をしたボラ、大根、にんじんを洗い、ほどよい塩加減にして橙(だいだい)の搾り汁で和える。砂糖を加えると酸味が抑えられて美味しい。[香川県東部『聞き書 香川の食事』(農文協)]

加工品・名産品


唐墨(からすみ)三年もの 寝かせることで塩の角がとれて、渋みがむしろ甘味とも深みともなって限りなく奥深い味わい。間違いなく「からすみ」のなかの最高峰のひとつ。[長宋商店 三重県熊野市]
からすみ唐墨(からすみ) 卵巣を塩漬けして、じっくり干し上げたもの。脂からくる独特の風味があり、旨みが濃厚。少しずつ切り取って微かにあぶって食べる。肥前野母(長崎県長崎市野母)の唐墨、越前の雲丹、三河(知多とも)の「このわた」とともに日本三大珍味とされる。
生唐墨(なまからすみ) 卵巣の塩漬け。三重県尾鷲市などで作られるもの。思ったよりもあっさりした中に、ボラの卵巣の風味が生きている。[はし佐商店 三重県尾鷲市]
ボラのへその干ものボラのへその干もの 三重県尾鷲市ではからすみ作りが盛んである。それだけ大型のボラがふんだんにとれるのだが、そのボラの幽門(へそ、うす)を塩干しにしたもの。焼いてもいいが煩わしいので、テフロンフライパンなどでから煎りするといい。コショウが合う。[北村商店 三重県尾鷲市]

釣り情報

内湾ではギャング針に赤い浮子で狙う。時にコマセを使うこともあるが、赤い大きな浮子に好奇心旺盛なボラが引き寄せられ、これを引っかけて釣る。

歴史・ことわざなど

■ 出世魚。
■ 関東の陸釣り(防波堤などからの釣り)をする人の間で「寒鯔(かんぼら)」という言葉がある。
■ 歳時記、俳句季語では「秋」。
■ 「いなせ」は勇み肌で、粋な若者のこと。またその様子。威勢よくさっぱりした気っ風の若者のこと。魚河岸の若者が、ボラの若魚であるイナの背のように髪を結んだことからくる。
■ アフリカ、イスラエル、東南アジアでは重要な養殖魚。
文献にみるボラ
鯔開き 滝沢馬琴の日記から暮らしに関するものを考察した『馬琴一家の江戸暮らし』高牧實(中公新書)に【鯔開き】というのがある。
ぼらの刺身 紀州和歌山藩の衣紋方(衣冠装束などを整える役目)であった酒井伴四郎はしばしば装束の稽古に三井家(江戸)に出向いている。装束の稽古のあとに料理を振る舞われているが、万延元年十一月二十四日には、「ぼらの刺身」が出てくる。
吸物鯔など 婚礼の膳や引き出物に。「塩鰡弐本」。夕食に「鰡焼物」。元禄6年4月24日 『鸚鵡籠中記』(朝日重章著 塚本学編注 岩波文庫)
すばしり打ち(魚へんに走る) 汽水域でボラの幼魚である「すばしり」の投網打ちにしばしば出掛けている。元禄7年閏5月27日 『鸚鵡籠中記』(朝日重章著 塚本学編注 岩波文庫)
吸物 赤みそ へそ 「今日御慶帯を結ぶ。懐胎五月」。祝いの膳で出る。赤みそ仕立ての吸物にボラのへそという意味らしい。元禄7年9月26日 『鸚鵡籠中記』(朝日重章著 塚本学編注 岩波文庫)
七夜の祝儀 産後七日目の祝いの膳に「なよし指身(さしみ)」、祝いに「大鰡二」。元禄8年3月16日 『鸚鵡籠中記』(朝日重章著 塚本学編注 岩波文庫)

参考文献 ▽

協力/三重県尾鷲市 岩田昭人さん
『図説有用魚類千種 正続』(田中茂穂・阿部宗明 森北出版 1955年、1957年)、『日本産魚類検索 全種の同定 第二版』(中坊徹次編 東海大学出版会)、『日本産魚名大辞典』(日本魚類学会編 三省堂)、『三重県の食生活と食文化』(大川吉崇 調栄社 2008)


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