メガロパはカニの子

やたらに可愛いし、やたらにひょうげているし


神奈川県小田原市、小田原魚市場、江の安、ワタルさんのところに揚がったオニオコゼをおろしていたら、可愛らしいおもちゃのような子がポロリンコとこぼれ落ちた。16mmの、カニの赤ちゃん、メガロパである。
このエビでもカニでもない、どことなくぎょうげた形の子が大好きである。春、堤防などで釣りをしていると、きらきらコバルトグリーンに輝くメガロパがミズスマシのように泳いでいることがある。
これをバケツに放り込んで見ていると、ロボットのようだし、小さな宇宙船のようようでもある。のぞいている内に、釣りなどやっていられなくなるのはどうしてだろう。
今回は、カニの赤ちゃんの話だが、この場合のカニは短尾下目というグループで、カニの研究者として世界的に有名であった酒井恒は真生のカニとしている。
エビ(クルマエビなど根鰓下目)、エビ(抱卵下目)やヤドカリやタラバガニの異尾下目、カニの短尾下目などを十脚目という。動いたりはったりする足(脚)が10本だからだ。

いちばんおいしい部分を隠す

カルイシヤドカリ

エビは最初は泳いだり砂にもぐったり、ときどき跳ねたりしていている。やがて海底面をはったり、岩の間にもぐり込んで暮らすようになる。いずれにしろ守る手立てを持たないので、魚などに襲われるとパクリとやられる。
こんな生活いやだと、危険極まりない生活に嫌気がさし、イネ科の植物の茎や軽石(写真はカルイシヤドカリ)にいちばんおいしい下半身をもぐり込ませて暮らすようになり、やがて貝殻などにむりやりお尻を刺し込んで背負って歩くようになる。巻き貝の巻きにまかせて体が歪んでくる。これを異尾下目(尾がゆがんだという意味で、ヤドカリ下目とも)という。
これが頑丈な体を持つようになると、邪魔な貝殻や石を捨てて長旅に出ている間にじょじょに体のゆがみを解消していく。異尾下目から短尾下目の中間に当たるタラバガニの誕生である。
このタラバガニの中からホモラ(カニの仲間とする人もいるし、異尾下目だという人もいる)が生まれ、ヘイケガニが出て来て、やがてタカアシガニやケガニ、イワガニ、ワタリガニ(ガザミ)となる。

カニの変態は進化の過程を見せてくれる


エビ、カニは節足動物門(非常に階級が高い話なのでなんとなくわかればいい)だ。ここには昆虫綱(チョウやカブトムシなど)もいるが、特徴は変態することだ。チョウなど卵からイモムシになり、サナギになり、やっと美しいチョウとなる。
生物(人間も含めて)は生まれてから死ぬまで、進化の過程を、姿を変えることで繰り返すのだ(エルンスト・ヘッケルの個体発生は系統発生を繰り返す)。
エビ、カニは卵から孵化すると最初プランクトン生活(浮遊生活)を送る。
カニはノープリウス(海水中で見られるのはクルマエビの仲間だけで、他のエビ、カニは卵の中でこの期を終える)、ゾエア、メガロパ(タラバガニと真生のカニだけ)と変態していく。
大雑把だが、「ノープリウス=ミジンコ」、「ゾエア=エビ」、「メガロパ=カニへの変化過程」、以上を経て真生のカニになる。
今回、オニオコゼに食べられ、短い生涯を終えたメガロパは、大人になったらなにになるのだろうか? ショウジンガニなどのイワガニ科とかガザミなどのワタリガニ科になる気がするが、ボクにはそこまではわからない。


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