木更津周辺の地図を見ると
海辺から黒く小さな斑紋で表現された
浅瀬が小櫃川の河口から
東京湾に張り出しているのがわかります。
この小櫃川が作り出した
浅瀬・干潟が盤州です。
この干潟・浅瀬がアサリや
養殖ノリを育んでいるのです。
さて今回は、木更津の漁師・
きんのり丸さんの案内で
「干潟の生き物をいっぱい見てやるぞ!」

2003年8月11日 千葉県木更津
干潟紀行


メンバー紹介。↓(写真上)眠そうな我が愚息。まったく緊張感なし。(写真下)左から我が娘、きんのり丸さん、生江さん、高山さん
 干潟を見に行く旅は、まず船で小櫃川を下ることから始まる。きんのり丸さんの家を出たのが8時、すでに真夏の太陽がジリジリと皮膚を焼いて、川面を過ぎていく強い風がやけに重く、温く感じる。きんのり丸さんの自宅から船まではすぐ、小櫃川川岸の船着き場を離れてゆっくり慎重に川を下る。「やけに慎重だな」と川底を見るとややササ濁りの水底にはっきり浅瀬が見えている。
 この浅瀬を避けて河口へ出るのは、きっと地元の人でも大変なことだろうと、きんのり丸さんを見ると、話し掛けるのも恐いような真剣な顔。我が娘が「とうちゃんとは違う」と写真整理をしている脇でなんども言うので、一発げんこつさしあげる。
 河口まで船では5分足らず、川の右岸(海に向かって)に上陸。ここから河口に出来た三角州が広がり、アシ原が右手に、そして遥かに続いているかのように干潟が左手に広がる。「海まではどれぐらい歩くんだろうね」と聞くと「2キロはあるな。行ってみますか?」ときんのり丸さんは呟く。「行けますか?」という問いかけのようだ。行こうとは言わずに、岸辺を歩いていく。目につくのはウミニナとアシハラガニ。



 遠くアシ原に近い場所でなにかスコップで掘る人がいる。「なにをとっているのですか?」と聞くよりも黄色いバケツには大量のヤマトオサガニが蠢いている。息子に「これ1匹40円するんだぞ!」と教えると、「え〜! おじさん大金持ち」と失礼なことを大声で、まことに恥ずかしい!
 とっているのは地元の方で他にもイワイソメ、ケフサイソガニなど釣り餌となるものは総べてとっているのであるという。内房を海辺近く走る国道16号沿いの釣り具店には必ず生き餌をおいている。これが「どこから来るのか?」長い間の疑問がはれたのである。
 そのアシ原に上がろうとすると無数の穴が開いている。じっと見ていると、ちいさなちいさな(平仮名で書きたい)カニがいる。目が慣れて、じっくり見ているとハサミを盛んにふって、おいでおいでしているような、帰れ帰れと言われているような。高山さんはカメラを向けていたが、望遠でもなければとても無理。あまりに小さくて確定できないが、たぶんコメツキガニではないかと思われる。
 そこから沖に向かって歩き出す。ときどきとまっては生き物を探すがウミニナとイボキサゴがやたらと多い。高山さんはイボキサゴの貝殻がきれいであると、撮影している。
 きんのり丸さんから面白い話を聞いた。この2種類の貝は生のまま肥料として使い、「イボキサゴは裕福な農家、ウミニナは貧乏な農家の田に入れる」。これは、「
イボキサゴは真ん丸くて田に入ったときに足が痛くないので裕福な農家に…。ウミニナは尖がっていて足が痛いので、貧乏な農家に使われていた…」のだという。それにしても肥料にして畑に撒ほどにいるというのは現状からすると信じられない。昔は生物の量自体が今とは比べられないほどに膨大であったということだ。
 沖へ沖へと歩く足取りが、どんどん重くなっていく。娘はビーチサンダルを脱いで楽になったと言うが、もうどれくらい歩いたのだろう。高山さんも生江さんも疲れた様子はない。むしろきんのりさんの顔に疲れが見える。これはきっと昨日の『海苔柵の場割』(のり養殖の始まり、詳しくは下記のきんのり丸サイトをご覧下さい)の疲れに違いない。『きんのり丸さんありがとう』と感謝の気持ちが湧いてくる。
 岸よりの場所で「アサリはいませんか?」というときっぱりと「いません」との返事。それが沖に出ると、きんのりさんが手のひらを広げてクマデのようにして砂地を返す。すると浅い砂の中からコロコロとアサリが出てくる。生江さんは、この場にどっかりとしゃがみ込んで、アサリを掘っては靴下(違うかな)に入れる。子供達もアサリ掘りを始めてしまった。
 高山さんと、きんのりさんが、透明な卵らしきものの事を話している。しきりにそれを探すが今日はない。(後日タマシキゴカイの卵であると判明)。またサキグロタマツメタがいる。このやっかいな移入貝は遥かに見える竜宮城(ホテル)の下の潮干狩り場から来たものだろうか?
 少し沖合いに来て、ぽつんと白い二枚貝がいる。これがなんとソトオリガイ。高知市の浦戸湾では年々減少しているというが、東京湾にもいるというのが驚き。高知では食用とすると言うのであるが木更津ではどうだろう? これもこれからの課題として調べたいもののひとつ。
 どれぐらい沖合いに歩いたのだろう、遥か彼方にアシ原が見える。ちょうど小櫃川の河口にそって竹杭が並んでいる。これはきっと澪つくしに違いない。澪つくしに沿って遥かに遠い船に帰る。
 バケツには子供が掘ったアサリがたっぷり入っている。ソトオリガイ、なぜかケフサイソガニ、チゴガニも同定のために持ち帰る(残念ながら紛失)。
 しかし帰る道のりは遠い、干潟はやけに粘質で長靴をつかまえて放さない。大体3時間ほどの干潟散策であったが、初めて出合う生き物、また干潟での漁など「面白くて面白くてこまってしまう」(こまってしまうは、娘の口癖)旅だった。
←干潟に無数にいるアシハラガニ。干潟をあっちへ行ったり、こっちへ行ったり、なんだか忙しそうにドタバタしている
↓ウミニナ。ホソウミニナ、イボキサゴとともにいっぱいいる。きんのりさんの話では昔肥料として畑に撒いていたそう
↓ヤマトオサガニをとる清水さん。木更津はクロダイ釣りのメッカ。落とし込み釣法という内房独特の釣り方にはヤマトオサガニ、ケフサイソガニ、イソガニ、ニッポンスナモグリ、アメリカザリガニが使われるが、清水さんは総てをとっているという。ちなみにヤマトオサガニは「たんくがに」と呼ばれる
→ホソウミニナ。ウミニナとの同定は自信がない
↓これは干潟に無数に刺さっている竹の折れた中に固まるイボニシ。そして右はその卵塊
→これがニンジンイソギンチャクだろうか? 砂地・干潟にいちばん多いというがこれも自信がない
↓(左)ソトオリガイ。これはたった1匹だけ見つけたもの。干潟の貝では急速に減少しているもののひとつ
(右)タテジマイソギンチョク。干潟でもっとも目につくもの
木更津の味
この日の昼食は、きんのり丸さんお勧めの『やまよ』。定食の店である。平日の1時過ぎなのに混んでいる。店内は椅子席と座敷きがあり、なかなか広く、清潔。定食は主に新鮮な魚貝類を使ったもので、ぼくが食べた「穴てん(穴子の天ぷら)定食」はバツグンにうまかった。なによりも穴子の味がいい。きっと水揚げされたばかりのものを使っているに違いない。これで800円というのは都心では考えられない。このひととき、きんのりさん夫婦を交えて、とりとめのない話に花が咲いた。ちなみに話がバラバラになったのは我が子供達のおかげである。子供達は、焼そばを注文。息子は一気にこれを片付けて、お代わりしたいと大騒ぎ。このわが子の「今度の旅でいちばんうれしかったこと」は、この『やまよ』の焼そばに添えられた紅しょうががうまかったことだそう。わが子ながら先々大丈夫だろうか? と心配になる。
今回の旅の関連HP
盤州干潟
http://www.kinnori.net/higata2003/index.html
http://www.kinnori.net/ike/index.html
きんのり丸
http://www.kinnori.net/
やまよ
http://www1.neweb.ne.jp/wb/jyozai3/country/store/lunch.htm



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