利根川周辺の漁
利根川川魚の味
川の幸を味わいながら

千葉県香取郡小見川町北総漁協
宮崎米秋さん、
篠塚秀一さん、
根本豊治さん
2004年1月10日
目次市場魚貝類図鑑
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「河口堰があいてるっぺ。めずらしいな」。黒部川から利根川に出たとたんに篠塚さんは叫ぶ。これが利根川河口域の漁業の息の根を止めた。しかもこの利根川河口域での漁業生産漁は全国でも有数のものであった
ウナギ鎌の途中で船と船をくっつけて世間話。まったく湖の上のようだ
 昼とはいえ漁を終えて缶ビールを空けるとともに、いつもは寡黙な宮崎米秋北総漁協組合長の舌が湿ってきた。「昔はのんだっぺよ。腹切るまではよ」と篠塚さんの言葉を受けるように、「コーラ20本のんだけか」と米秋組合長。宮崎さんは昭和15年生まれの63歳(2004年1月現在)。飲みにいくとしたら、隣町神栖町であるという。神栖町に3人で飲みに行くとひとりは運転手で酒は飲めない。それでコーラを20本飲んだのだとか。大腸ガンの経験者でもある組合長、穏やかな眼差しの奥にはさすがに利根川漁師の猛者ともいえる内面を持っているようだ。
 それとは正反対に根っから明るいのが篠原秀一さん。篠塚秀一さんは昭和16年生まれの62歳(同)。利根川なまりの強い篠塚さんは60を過ぎているとは思えないほどよく動く。しかも接していても細かなことによく気がついて、「疲れたっぺ」とか「飽きたっぺ」なんてしきりに聞いてくる。篠塚さんは今も変わらずに酒豪を続けている。
 根本豊治さん、昭和19年生まれの59歳。3人のなかではいちばん寡黙である。ただ、漁のことなどを聞くと、目尻のシワを寄せながら懇切丁寧に教えてくれる。きっと本当の素顔を見るためにはじっくり酒でも飲むしかないのかな?
 ともに今では農業の方が主でありウナギ鎌漁以外の漁にはほとんど出ることはない。この3人から出てくる話が利根川漁師の歴史そのものである。

 河口堰建設の計画が持ち上がって、その目的が二転三転したこと。シジミの全滅。利根川での漁の柱ともなっていたシジミが河口堰を締めたとたんにあっという間に死滅。河口堰のシジミに対する影響はまったくないとしていた国(水資源開発公団)のその後の対応。このシジミが今でも健在であったなら、利根川河口の漁業は後継者もそれなりに確保できたはずであるだろうし、それがもたらす潤いは長くみれば莫大な額であったはず。
「まったく役人てのはうそばっかつくっぺ」篠塚さんの言葉に、「まったく悪いことばっかする」、宮崎さんはうなずいて、「シジミは減らねって、わしらなんども聞かされた」。これは当時関わった役人、そしてそれを裏付けた学者ともに河口堰は自然環境、魚貝類にはほとんど悪影響はないとしていたこと。またその予測が大きくはずれたことに対する反省・陳謝もないことに対する怒りでもあるようだ。
 実をいうと我が国の役人は犯罪でも起こさない限り、行政事業でどれほど悪質なことをしても許される。また守られているのである。言はば、「役人公務員に関する限りやりたい放題の体勢にある」。これ有権者ならもっと深く考えてみる必要がありそうだ。
 シジミがあったらどれほどよかったかは3人の話を聞くたびに感じることである。北総漁協で今、採算などにおいて成り立っているのはウナギだけである。それもここ数年極端な減少にある。

 この2〜3年前からの魚貝類の極端な減少を「きっとな手賀沼の水のせいだ。手賀沼から汚れた水が利根川にはいってくだ」、篠塚さん、宮崎さんは確信をもって語る。
 これは数年前から『北千葉導水事業』という手賀沼の水質浄化事業が始まっている。これは汚染された手賀沼の水を利根川に排水することで水質を浄化するというもの。すなわち汚染が激しい手賀沼の水を利根川にながすことで短期間に手賀沼の水が浄化できるということで、わかりやすい事業ではある。ところが利根川の現状を考える場合、この事業がいかに無謀であるか? これは子供でもわかる話なのだ。すなわち手賀沼の汚染水を利根川の流れに乗せて太平洋に流し捨てる。これが可能である前提条件は「利根川に流れがある場合」である。
 ちなみに利根川に船を浮かべてエンジンを止め、昼ご飯を食べたことがある。「アンカーうたないんですか」と篠塚さんに聞くと「まあみてみっぺ、船は流れねっから」。それから20分ほどゆっくりお握りを食べる間、数メートルと船は動かなかったのである。また河口堰以前のウナギ鎌漁は流れのある場合、流れに任せて鎌を引いていたのが、堰ができて以来まったくそれができない。(ウナギ鎌漁に関してはここを見てね)
流れのないところに汚水を流せばどうなるか? 北総漁協でも国土交通省に反対、また説明などを求めるが黙殺されている。
 現実に、この北千葉導水事業以降様々な影響が出ている。魚貝類に関して言えば今までいちども臭いを感じなかったボラが2004年1月10日、食べられないほどに臭いのである。ほかには小見川より下流でとれるシラウオなども石けんのような臭いがすることがある。
 宮崎組合長が「臭くて食べられねっぺ」とシラウオをもらった仲間の漁師に話すと、「生でくったっぺよ」と言われたという。とれたてのシラウオなら生がうまいに決まっている。
 昔はシジミ、コイ、フナ、ボラ、それに名物ともいえるウナギと季節季節に漁があった。それを積極果敢にどんどん死滅に追いやって、その上知らんぷり。これが我が国の行政政治の姿である。このような無謀、そして国費をどぶに捨てるようなことを平気で行うやからから自然を守るにはどうすればいいのだろう? 政治的に無関心ではあるものの「早く何とかしなければ!」という思いがこみ上げてくる。



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