202403/27掲載

めじで伝統食品、「塩まぐろ」を作る

カツオで作るのが一般的だが、消費地ではマグロでも作る


八王子綜合卸売センター、福泉でクロマグロの若い個体である、「めじ」を買った。触った限りは脂はないとみたが、非常に美しい個体で思わず手が出てしまった。念のために鰭の確認をして、体のキズのあるなしを見る。
鮮度がよく、美しいだけではなく完全無欠に近い。我がデータベースは同じ魚でも繰り返し繰り返し、丸々の状態、すなわち形態画像を取り直している。
以上は前回と同じ。
宮城県気仙沼や石巻で「かつおのだぶ漬け(カツオのだぶ漬け)」、「カツオの塩引き」と呼ばれ、関東周辺で「塩がつお」、三重県志摩地方・熊野地方で作られている「塩ぎり」と呼ばれているものがある。
今や絶滅危惧食品であるが、1970年前後くらいまでは日常的な普通の食品であった。東北太平洋側から静岡県くらいまでのカツオの産地で塩蔵処理されて、東北の山間部、東京都をはじめ、関東、東海、紀伊半島の山間部に送られていた。三重県などで作られていたものは、岐阜県などにも送られていた可能性が高い。
この日常的な「塩がつお」を産地で作っていた人、流通させていた人、売っていた魚屋などが寿命を迎えつつあり、記憶が永遠に失われようとしている。
誤解が生まれそうなので、述べておくと、近年、西伊豆で師走になると飾られ、年取に食べる「塩がつお」が有名だが、あれは塩漬けにして干し上げたもので、ハレ(正月、年取)の日のために作るもの。一般的に流通していた、今回の「塩がつお」とは別のものである。
本コラムは、あくまでも日常的に食べられていた「塩がつお」の話だ。
山形県米沢市での聞取でもそうだが、じょじょに海辺でカツオの塩蔵品が作られなくなると、消費地で作られるようになる。またカツオではなく、サバ科のマグロ属やハガツオ属、ソウダガツオ属でも作られ、魚屋の店頭に並び、自家消費されるようになる。
中でもマグロ類は都内でも魚屋などで生食できないものや色変わりしたもの、小型のもので作られていたようである。

「めじ」の塩蔵品はカツオの、とあまり変わらない


この消費地で作られていた「塩がつお」、「塩まぐろ」の作り方は簡単である。
今回はこの「塩がつお」を「めじ」で作ってみる。
水洗いして三枚に下ろす。
焼きやすい大きさに切る(もともとは1尾丸ごとか、半身で作っていたものを、消費地ではより簡略化して切り身にした)。
これをたっぷりのべた塩にする(多めの塩をトレイなどに盛り、魚の切り身をべたっとつけて塩をする)。
水が出てくるので、3時間くらいごとにひっくり返す。
半日べた塩の中で塩をしてビニールなどに入れて密閉する。
これを2、3日寝かせて出来上がる。
非常に塩分濃度が強く、水分を拭き取って焼くと塩が吹き出してくる。
多くは食べられないが、単に塩をして焼いただけでは生まれない味になる。
ほんの小さな破片から感じられるうま味が強い。
確かにカツオで作る塩蔵品の方が一般的だったのだろうと思うが、「めじ」で作ってもおっつかっつの味である。
昔、このカツオの塩蔵品で茶漬けを食べるのが好きという、オカミサンがいて、せっせとオカミサンのために作っていた魚屋がいた。この作り方はその魚屋直伝である……。

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クロマグロのサムネイル写真
クロマグロPacific bluefin tuna海水魚。外洋表層域。日本近海。朝鮮半島南岸・東岸、サハリン、千島列島南部のオホーツク海、アラスカ湾、北緯5-40度の・・・・
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