202310/15掲載

庶民的な庶民のためのニクモチガレイ

がさっと無造作に放り込まれた地味なヤツ


世にお魚マイスターとか野菜ソムリエなどという言葉があるが、だたのカルチャーセンターのようなものかも知れないが、この言語を正しく使わないところが非常に嫌いである。マイスターは靴とか楽器とかもの作りにだけ使うものだし、ソムリエはワインとかその周辺の種類にだけ使うべきである。
別にカルチャーセンターに通うのはいいにしても、小説のカルチャーセンターに行っても小説家にはなれない。要するにヒントのようなものが与えられるだけで、こんなもので本当のマイスターとかソムリエとかになれるわけがない。最低限自称してはいけない。
ちなみに知識とか利用法の探求とかで、国内には水産物の分野で「物作りのマイスター」に例えるような深い知識を持っている人間はひとりもいない。
それぞれの分野のプロはいる。ただ、魚屋は魚屋のプロだけど、水産物の知識はさほどなくても、商売上手ならなれる。漁師は漁のプロではあるが魚をおしなべて知っているわけではない。
ただ、魚屋のプロは今現在確実にいるし、漁師のプロもいる。大問題は利用する側(消費者)のプロがいないのだ。
さて、どうしてこんな話をするかというと、過去にこの手のカルチャー的な仕事に関わったことがあるからだ。その人達は目が見えていないのに絵を平気で語るかのごとき人間たちだった。
例えばこの手のカルチャーなことをやらかす会社などは、水産の基本は知らず、奇をてらったものばかりを追う。水産の世界は「もっとも平凡な、もっとも日常的な水産物を知ることから始めなければいけない」のにそれをしない。
今、もっとも知って置かなければならない水産物、例えば魚ならば、古くから食べられていたサメ類とか、カレイ類とか、イワシ類とかとかだし、今現在もっとも安くて庶民的な水産物だ。平凡を知らずして奇を追うことなかれ。

ニクモチは肉餅でもちもちっとした身をしている


なんて、八王子総合卸売センター、総市の「ニクモチガレイ」を見て一瞬にして思った。標準和名をミギガレイという。日本海と銚子以北の太平洋のやや深場にいる小型のカレイである。底曳き網などでときにまとまって水揚げされ、関東にも大量入荷する。
福島県相馬市原釜からきたもので、見た目も地味だし、味も普通においしいので印象に残りにくい。もしも水産物の消費者のプロになりたければ、このような魚をちゃんと押さえておかねばならぬ。同じような魚に海道や東北のソイ類(旧カサゴ科ソイ属)、日本海のハツメなどがある。
このミギガレイの命名者は不明だが、魚類学者が魚類学的につけた名だと思っている。なぜか? 明治期に当時の魚類学者が標準和名としての呼び名を採取した地、東京日本橋の魚市場であまり見かけない魚だったからだ。
明治時代、東北は非常に遠いところだった。この地の水産物の流れが盛んになったのは東本線が開通した少し後、大正期になってからだと思う。当時、東北の水産物は豊かだった。水産の世界は売れそうなものは出荷し、売れないけど味のいいものは自家消費とか近隣で売るというのが基本だった。本種などその近隣で売られていたおいしい魚で、大量にとれたときだけ出荷するといった魚のではないか。

干ものはふっくら膨らむ


煮つけにしても塩焼きにしても、干ものやソテーしてもとてもうまい。しかも卸値で㎏あたり数百円しかしない。
よろこんで一箱買い、まずはせっせと下ろす。
水分をきって立て塩に放り込む。
20分くらい漬け込んで、ふたたび水分をきり、干す。
半日から1日でうまい干ものが出来上がる。
ミギガレイの干ものは肉厚で焼き上げるとより膨らむ。
真子がうまいのもいい。
考えてみると、一大消費地である関東にとって、一大供給地である原釜には長いこと行っていない。ちゃんと復興後の原釜を見ておかないとダメだと思っている。

このコラムに関係する種

ミギガレイのサムネイル写真
ミギガレイRikuzen sole海水魚。水深100-200mの砂泥地。北海道渡島半島(少ない)〜九州北岸の日本海沿岸、北海道噴火湾〜千葉県銚子の太平洋・・・・
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