浦戸湾文庫 04
高知大学理学部自然環境科学科教授 理学博士、高知大学海洋生物教育研究センター教授兼任
町田吉彦 Machida Yoshihiko
1947年3月30日生 秋田県出身
スズキ目イボダイ科ボウズコンニャク
註●1
蒲原稔治教授(1ページへ

註●2
松原喜代松
1907年、兵庫県生まれ。農林省水産講習所増殖科卒。京都大学農学部教授など歴任。魚類学の黎明期にあって多大な功績を残した。1967年12月没
“えがに”と浦戸湾とぼうずコンニャク 01

 永野さんと知りあってさらに驚いたのはこの“ぼうずコンニャク”のサイトである。これには参った。魚に関しては何とかついていけそうだが、魚以外の動物に関しては参考になることだらけである。これぞ漁師さん、研究者、市民(消費者)を繋ぐ格好の手段である。
 ボウズコンニャクはご本人が指摘しているように、役に立たない魚の代表格である。1952年、高知大学の故蒲原稔治教授(註1)は土佐湾産の標本をもとに、この魚に新称チゴメダイを与えた。確かに、小振りのメダイの印象はある。しかし、メダイそのものが余りポピュラーではない。1955年、蒲原教授と親しく、魚類分類学の世界で、「東の松原、西の蒲原」と称された京都大学の故松原喜代松教授(註2)が名著「魚類の形態と検索」を著わした。その中に「ボウズコンニャク(チゴメダイ)」とある。すなわち、ボウズコンニャク=チゴメダイである。「新称」との断わりもなく、和名の由来もないが、ボウズコンニャクの名称が活字として世に出た最初ではないかと思われる。私は卒業研究をする学生に、まず自分で魚を捕ってこい。市場でもらってこいと指導している。本当は、魚を手に入れるより、色んな人と知りあいになるのが大切なのだが、これはひとまず置いておこう。


“えがに”と浦戸湾とぼうずコンニャク 02

 御畳瀬の大手繰り(水深90m以深の底曳き漁)の獲物に、時としてボウズコンニャクが混じっている。量は決して多くない。ぱらぱらという程度である。何の特徴もない、ぱっとしない魚である。今日日の学生流に言えば、「地味系」とでもなろうか。しかし、学生は最初、なぜか例外なくこれを拾ってくる。他の魚とちょっと違うのだ。少ないが故に、「珍しい」という印象を与えるのだろう。そして、拾ってきたのはいいが、ああでもない、こうでもないと悩む。今は絵解きの検索があるが、ほとんど文字だけの「魚類の形態と検索」の時代は悲惨であった。初学者がストレートにボウズコンニャクに辿り着くことはまずなかった。産業的に無価値なこの魚は生態もろくに分かっていない。しかし、苦労の末に一度顔を覚えると、二度と忘れられない魚である。
 御畳瀬の大手繰りが消滅しそうな現在、将来土佐湾産のこの魚に逢えるのは、保存標本と調査船の獲物としてかもしれない。ボウズコンニャクと書くと明らかに標準和名であり、学問の世界の名称である。しかし、“ぼうずコンニャク”は明らかに標準和名ではない。ボウズコンニャクの正体とその市場での価値を知っている者にとって、まったく心憎いネーミングである。ご本人の本職は未だ知らないが、それはどうでもよいことである。学者や研究者ができなかった世界を着々と切り拓いている。こんな次第で、片田舎から微力ながら応援したいと考えている。

町田吉彦 Machida Yoshihiko http://www.kochi-u.ac.jp/w3museum/fishlab.html

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