浦戸湾文庫 01
高知大学理学部自然環境科学科教授 理学博士、高知大学海洋生物教育研究センター教授兼任
町田吉彦 Machida Yoshihiko
1947年3月30日生 秋田県出身
蟹をはずしている高知大学学生と永野昌枝さん。昌枝さんは現役の漁師であるとともに、日曜市の花でもあります。永野廣。昌枝夫婦は町田教授とともに浦戸湾にアマモを植える活動をしています
『えがに』、トゲノコギリガザミ。1キロを超える大形のカニであり、浦戸湾を代表する味覚です
浦戸湾の衣ケ島での野外学習。もっともっと子供達に海辺におりてきて欲しい
“えがに”と浦戸湾 01

 10年以上前だろうか、正確にはちっとも思い出せないが、陽春の頃だったような気がする。久々に日曜市に行ってみた。土佐の日曜市は面白い。金魚や地鶏や犬・猫、花や苗木、骨董品から刃物や日用品、お菓子や野菜や果物、自家製の漬物から田舎寿司、そして海産物と何でもある。ここでやたら大きなノコギリガザミを見た。とにかく大きかった。石垣島のマングローブ地帯やインドネシアのスラウェシ島の魚市場で見たサイズをはるかに超えている。「この“えがに”はどこで捕れたが?」と尋ねたところ、「浦戸湾」とのことだった。いま考えると多分、応じてくれたのは永野昌枝さんだったのだろう。四万十川の巨大なアカメやオオウナギや“えがに”はしばしば地方紙をにぎわすが、浦戸湾との応えには半信半疑だった。昭和40年に高知大学に入学した私にとって、浦戸湾はとにかく汚い海との印象しかなく、これをずっと引きずっていた。当時、高知駅に降り立つとドブの匂いがした。家庭廃水が大量に流れ込む江ノ口川の汚染は尋常ではない。この川が注ぎ込むのが浦戸湾である。当時、某製紙工場のパルプ廃液が垂れ流し状態で、これまた浦戸湾を極度に汚染していた。昭和53年、運よく土佐に戻れたが、浦戸湾の生き物を対象に仕事をするなど考えも及ばなかった。

“えがに”と浦戸湾 02

 昨年、ある団体から、子供を対象にした浦戸湾の動物の観察会をしたいのだが、講師をやってくれないかとの打診があった。頭の中には汚い浦戸湾の印象がこびりついている。せいぜいゴカイが棲んでいる程度と考えていた。しかし、事前の調査で驚いた。衣ヶ島周辺の干潟に大勢の市民が押し寄せ、家族でバケツ一杯、二杯のアサリを掘っている。島からしみ出す真水の先の泥地ではヤマトオサガニが鋏を振り上げ、チゴガニもちょろちょろしている。泥を掘ってまた驚いた、マメコブシガニが出てきたのだ。


(左)ヤマトオサガニ、(右)チゴガニ


マメコブシガニ

 この種はこの年の3月に発行された高知県レッドデータブックの動物編で絶滅危惧II類(絶滅の危険が増大している種)に指定されたばかりである。もっぱら川の生き物や土佐湾の魚、そして西部太平洋の深海魚を相手とし、ついでに“お上”の要請でニホンカワウソとカモシカを含む哺乳類の調査・保護・啓蒙活動に従事していたが、まさか足下の浦戸湾にこんな自然があるとは。即座に日曜市の“えがに”が頭に浮かんだ。

町田吉彦 Machida Yoshihiko http://www.kochi-u.ac.jp/w3museum/fishlab.html

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