学生 甲斐宗輔   1977年愛知県生まれ
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当日は暮れも押し迫った30日。年末年始の買い出しで賑わう、一色魚市場
一色さかな広場朝市
一色さかな広場
ヒメジ、キュウセン、セミホウボウ、コショウダイ、コチなどで一箱400円という値段
ウロハゼ、メイタガレイ、キビレミシマ、イボダイ、せいご(スズキ)、ヒメジ、クロウシノシタ、シロギス、ヒトデも入って200円。カワハギの箱は400円
アブラソコムツとキアアンコウ
ウスバハギ、ヒラツメガニ
クルマエビ、ヒラメなど多種多様な魚貝類
一色魚市場
愛知県幡豆郡一色町大字一色字東塩浜17-2
電話 0563・72・8281(一色漁業協同組合)
営業時間/朝4時半〜8時頃
定休日/毎週月曜日
※この他にも不定期に休みがあるので、電話で確認のこと
一色さかな広場朝市
愛知県幡豆郡一色町大字小藪字船江東176
電話 0563・72・3700(一色さかなセンター)
営業時間/朝5時〜8時(土・日は〜12時)
定休日/毎週月曜日
 ここ数年、僕は愛知の実家に帰省するたびに、早朝の一色漁港に行くことにしている。目的は、多くの種類の魚を見ること、そして食べること。
 僕は、幼児期の愛読書は魚類図鑑、小学生の頃はいつも近所の川で釣り、行楽なら遊園地より水族館、好きな食べ物はもちろん魚、という人間である。しかし、ある時、その割に今まで食べたことのある魚の種類があまりに少ないということに気付いた。これでは本当の意味で魚のことを知ったとは言えないのではないか、と思った。そして、友人の漁師から売り物にならない魚を譲ってもらって食べるという、「魚通選手権」で有名な「さかなクン」の話を思い出し、魚港へ行けば、多くの種類の魚が手に入るだろうと思った。それ以来、帰省のたびに一色漁港へ行くのが習慣になった。

■一色漁港とは
 一色漁港は、鰻の養殖で有名な愛知県幡豆郡一色町にあり、三河湾で最も水揚量が多く、『魚市場』を併設している。その隣の『一色さかな広場朝市』にも魚屋が軒を連ねる。こちらは漁協ではなく、一色さかなセンターが運営する朝市である。ここには他にも、鰻、青果、立ち食いうどんなどの店が建ち並んでいる。
 行くならば、5時半から6時頃がいい。魚市場も、朝市も、この時間帯が最も魚貝類の品揃えがよいと思う。なお、品揃えは日によって多少の差がある。特に、前の日に天気が悪かったりして漁がなかった場合は、当然のことながら品揃えも少なくなる。

■市場の巡り方・楽しみ方

 魚市場の建物には、卸売店が横一列に店を構えている。人が行き来するスペースを挟んで向かい側にも、2〜3の店が露天に店を出している。それらの店の前に、水揚げされた直後に競り落とされた魚が、次から次へとセリ場から木箱に入れられて運ばれてきてズラリと並ぶ。箱の中身は様々である。一種類のものがたくさん入っていたり、バラバラの種類のものが入っていたりする。また、生きてピチピチと跳ねているものも多い。値段も様々で、一箱数百円のものから、一匹数千円もするものまである。最も活気のある6時頃には、料理人、魚屋、一般人を問わず、多くの人が詰め掛ける。
 鮮度が抜群にいいのは言うまでもなく、値段もかなり安い。トラフグやハタ科・マダイ・ヒラメなどの高級魚、ガザミやシャコ・クルマエビなど甲殻類、タコ・イカ類、アサリ・大アサリなどの貝類をはじめとして、アジ類やカレイ類、スズキ、カワハギ、マアナゴなど、一般の魚屋やスーパーでおなじみの魚貝類も充実している。特にエビ類は種類・量ともに豊富である。
 しかし、僕の目的はあくまでも多くの種類を味わうことなので、目当ては専らいわゆる「雑魚」とよばれる、一般にあまり出回らない魚たちということになる。
 まず、全ての店先の箱の中身を見て回る。店によってそれぞれ品揃えに特徴があるように思う。いくつかの箱に目星をつけておき、種類の多さ、好きな種の有無、食べたことのない種の有無、値段などを勘案してどれを買うか決める。幸いなことに、どちらかといえばマイナーな魚たちなので、どれにしようか考えている間に他の人に買われてしまうこともほとんどない。選ぶ楽しさをゆっくりと味わえる。「マイナーな」と書いたが、アカムツなど、他の地方では高級魚だがこの地方ではマイナーなものも時々見かける。それらは当然値段もかなり安い。とれる地方によって味に格差があるにしても、掘り出し物といえるだろう。
 魚は原則として箱ごと買うのが決まりである。しかし、店によってはダメもとで頼めばバラで売ってくれたり、半量などに分けて売ってくれたりすることもある。また、箱ごと買ったとしても、鮮度が良いのだから一日で全部食べる必要もないし、一人で全部平らげてしまう必要もないのだ。家族や友人で、また、数日に分けて食べることもできるし、それでも食べきれなかったら、冷凍しておいて後日食べることにしてもいいと思う。
 買うと、生きている魚は店の人がその場でしめてくれる。そして、大きい透明ビニール袋に全部豪快にドバッと入れて手渡してくれる。訊けばそれぞれの魚の料理法も教えてくれる。なお、値段についてだが、値札に書いてある値段はセリ値であることも多く、その場合、売り値はその1〜2割増しくらいになる。
 あとは、それらをクーラーボックス等に入れて持ち帰ってさばき、刺身、焼き物、煮付け、揚げ物、鍋などさまざまに料理して食べる。

■「雑魚」の味わい
 一色漁港の場合、なぜか雑魚の箱に、小〜中型のホウボウやコショウダイ、カイワリが数匹混じっていることが多い。これらはどう料理してもおいしいのは言うまでもない。
 特筆すべきは、「雑魚」の味の力強さである。
 これまで、多くの無名の魚の意外なおいしさに驚かされてきたが、第一印象が最も強かったのは、本サイトでもおなじみのカゴカキダイと、クラカケトラギスである。いずれも、数十匹入り一箱数百円で売られる、いわば雑魚の中の雑魚である。
 カゴカキダイの刺身を初めて味わったのは、2年前の夏だったと思う。箱買いした魚の中に数匹混じっていた。手元にある『海の釣魚』(成美堂出版)という図鑑には、味の評価は低く、料理法は「塩焼き」とある。しかし、さばいてみると身質がよく脂も乗っているので、刺身にしてみた。一口食べてみて、その味に驚いた。口に入れるとまず脂の甘さが感じられ、噛むとほどよく歯ごたえもあり、後から旨みがじわりとくる。イシダイに近いが、微妙に違う未知の味。皮目もうまいので、たくさん手に入れば、皮をつけたまましゃぶしゃぶにするのもいい(実は、「市場魚貝類図鑑」は、カゴカキダイが東京でも手に入らないかと思って、ネット上を検索していて見つけました)。
 クラカケトラギスも同様に、雑魚の箱の中に混じっていた。ちょうど天ぷらサイズだし、「キス」の名がついていることだし、素直に天ぷらにしてみた。すると、身にしっかりした味があり、それでいてくせがなく、白いふっくらした身の質感と、皮の弾力ともあいまって深い味わい。シロギスやメゴチ類と比べて遜色ないどころか、天ぷらやフライにする魚としては最上のものだと思う。塩焼きも捨てがたい。
 この2種は、もっと評価されていいのではないか。
他に、マイナーな種で一色でよく見られるものでは、以下のようなものの味が印象に残っている。
アイゴ/アイブリ/ウツボ/ギマ/キュウセン/キントキダイ/コトヒキ/シマイサキ/シマウシノシタ/セミホウボウ/タカノハダイ/タマガシラ/テンス/ヒウチダイ/ヒメジ/ヘダイ/ミシマオコゼ(キビレミシマも)/ヨロイイタチウオ(50音順)
 最もよく見られるものだけ挙げたが、これら以外にも季節や日によって多くの種類が見られる。これら「雑魚」は養殖などされておらず、当然に「天然もの」だから、下手な養殖の高級魚よりもうまいのは当然!というのは少し短絡的かも知れない。だが、全ての魚が絶品という訳にはいかないまでも、さすがは厳しい自然の中で育ってきた魚たち。いずれも味に個性があり、十分賞味に値するものだと思う。むしろ、あまり一般の流通過程に乗らず手に入りにくいぶん、ぜいたくとさえ言えるのではないか。少なくとも「まずい」と思った魚はほとんどない。一緒に食べた家族や友人の反応も同様である。
 他に、過去何度か見たが、買う量との兼ね合いで味わう機会がなかったものもある。
イラ/オキナヒメジ/ダツ/ツバメコノシロ/ベニテグリ
 などで、これらは今後の課題である。
●ここに登場した魚貝類のことは「市場魚貝類図鑑」でご覧ください

■おわりに
 さて、最後に少しだけまじめな話を。
 三河湾では近年、魚が少なくなってしまったことが問題になっている。漁獲量も、以前と比べてめっきり減ってしまったといわれる。それは、幼い頃からしばしば三河湾へ釣りに行っている僕も実感しているし、親や周りの人々の思い出話を聞くにつけても、深刻な問題である。原因として、しばしば「カニの爪の形」と称される三河湾の水の循環の悪さに加え、工業排水の増加や、いわゆる「公共事業」による沿岸の環境破壊など、様々なことが指摘されている。それらの問題点やその解決策について書くのは今回の題意からいささか離れてしまうし非常に長くなってしまうので、機会があれば別にまとめて書きたいと思うが、とにかく、三河湾にとどまらず日本の海が、僕たち人間のせいで、魚たちにとって住みにくい場所になってしまってきているのは間違いない。
 こういう問題について「変えていかなければならない」「一人一人の問題意識が必要だ」というのは、確かにその通りなのだが、あまりに当然すぎるし、漠然としていて説得力がないだろう。
ただ、これだけ言わせて下さい。魚が減ってしまったとは言うものの、漁港へ行けば、まだまだ多くの魚たちに出会うことができます。一度、早朝の漁港・魚市場へ足を運んでみてください。楽しいです。海にはこんなに多くの生き物たちがいるということを、彼らの姿を見て実感してください。そして、何より彼らを味わってみてください。
 魚たちに会いに、漁港へ行きませんか。



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