2002年3月31日 八王子市犬目の旅
たくさんの野の花に出会いました。田に一面のタネツケバナ
 東京といっても多摩にはすぐそこに生き物と出会える場所がたくさんある。そのなかでも八王子市犬目は我が家から車で15分足らず、遅い朝ご飯の前のお散歩旅。春休みの、しかも素晴らしいお天気の日曜日だというのに一般道はがらがら、信号にもほとんど捕まらない。ゆっくり走る我が愛車に、後ろの車は不満げに急接近してくる。もちろんそんなバカな人間は無視、のんびりゆっくり走るのをもっとうとするのが我がテラノ。
 今年はぽかぽかと暖かい日が続き、3月16日にサクラの開花宣言。旅に出た日には山桜も咲いて空をツバメが滑空している。八王子の和菓子やさんのウインドウには「柏餅はじめました」のはり紙、娘と買って帰ろうねと腹ぺこグウグウ鳴る。

 昨年、犬目に来たのは5月。トマトやナスの苗を買いに園芸センターに来たのだが、早く着過ぎてセンターは開いていない。仕方なくどこか魅力的な裏山に続く道を時間つぶしにお散歩がてら登ったのだ。登ると小さいけれど湿原や棚田、雑木林が続きなんとも楽しい。見知らぬ花や木、昆虫が道を歩くだけでもたくさん目につく。しかし新緑の山道はなぜかとても肌寒い。もう帰ろうかなと思っていたら、娘がなにげに道脇の枯れ木を持ち上げると、ビックリするほど大きなガマガエル。まだ冬眠中。我が家の畑にも3匹のガマガエルが住んでいるが、この半分もない。娘と手で突くといかにも迷惑そうに片目のまぶたをゆっくりと開いてジロリ。「迷惑だよとっととうせな!」とでも言っているよう。ご免なさいよと枯れ木を乗せてさよならしましたが、性懲りもなく、今回は1ヶ月早くカマガエルに会いに行こうという計画だ。

 後で買い物をする八王子園芸センターに車を止めて山道を登ると、まずは満開のシャカツサイ。竹林のほの暗いなかに青紫色に仄めいて見えます。この雰囲気に末の娘は何故か機嫌を悪くしたらしい。いや怖くなったのかな。おおはしゃぎしていたのが、突然、静かにだまりこんでしまいました。すると上の娘がスミレを発見。青紫
と白の2種類のスミレ。これはケマルバスミレとスミレサイシン。スミレはいつ見てもひそやかにツンとすました年上の少女のよう。中年のおじさんがこんな気持ちになるのは変かも?
 登り坂をゆっくりゆっくり散策します。3月の最終日。本来はまだ寒いだろうと重ね着をしているので汗ばんでくる。竹林、大きな旧家を抜けると、湧き水を水源とする棚田が広がる。山道には一面のカンゾウの芽、土筆やカキトウシも大きく育っている。棚田を過ごしてまた山道をのぼると、去年たくさんのホトトギス、ササユリを見つけた林が左に。こちらはまだ、どちらも芽を出したばかり。
 もう少し上がった場所でガマガエルの枯れ木が去年のまま残っています。そおっとそおっと枯れ木を起こしますが、今年はガマガエルはいません。無理矢理起こされた去年に懲りて住まいを移してしまったようです。
 ほんの一息、山の一番高い場所まで登って棚田まで戻る。と、「ぎゃ〜」と叫ぶ娘。指差す場所は何の変哲もない木の生え際、黒っぽく薄汚れて見える。良く目を凝らすと、なんとこの黒い墨のようなもの、ウズブズウズズと動いている。なんと無数の小さな虫たち。近寄ってもひとつひとつは何がなんだかわからない。今年こそルーペを買わなければ。と傍らで末娘を見ると、どこか変です。どうもこの黒い物質に、まだ眠いのが重なって我慢の限界にきているよう。



 上の娘が歌を歌ったり気持ちを逸らせるが、棚田に戻り着くと、やはり末娘がむずがる。そしてとうとう「帰る!」と泣き出して、道にしゃがみ込む始末。どうも謎の黒い生き物が心底怖かったよう。今すぐ帰りたいと言うのを何とか思いとどまってもらい、そおっと田んぼの畦に入る。すでにセリ摘みをするおじさんがいて、スーパーの袋がいっぱいだ。セリは山の斜面からしみ出す流れに沿っていっぱい生えている。
 振り向くと田には一面のタネツケバナ、霞のように白く田一面を覆っている。美しい。タネツケバナとは、この花が咲くと米の種を水につけて「苗を作り始めなさいよと!」と教えてくれるのだとか? 山菜としてもおいしく、近縁のオオタネツケバナは愛媛県では「ていれぎ」と呼び野菜として栽培されてもいる。
 末娘もつくしやセリを摘みはじめると御機嫌はなおったようだ。田から山の斜面を登ると、枯れ葉が敷き布団のように、座ると暖かい。枯れ葉の間からたくさんのつくしを頭を出しているではないか。天ぷら用に、つくし、セリ、ヨモギを摘む。
 山の斜面や田の畦をたどりながら、去年見たイモリを探しますが、まったく見つからない。昆虫もまだほとんど見つからない。そして娘が見つけたのが巨大なカエルの卵。田の中をよく見ると、生まれたばかりのオタマジャクシ泳いでいる。まだ小さいのが真っ黒にかたまって、そこここに、ものすごい数。



 やはり暖かいといっても3月、昆虫や動物はまだまだ少ない。田んぼに無数にいたオタマジャクシは名前はわからない。しかしこの数は凄まじい。きっとこの田んぼではほとんど農薬のではないだろうか。
 そしてなんとか見つけた小さな昆虫たち。田んぼの枯れ草の上で見つけたのはオレンジ色に白い点のテントウムシ。これはテントウムシダマシだろうか。そのほかカゲロウ、カミキリの仲間に出会ったが、残念、まったく調べる手立てがない。だれか教えて欲しいとSOS。
 田を巡る小道にはひっそり1株だけタンポポが咲いている。これはカントウタンポポである。下るがけに花火のような花のカンスゲ。そして初夏には甘いモミジイチゴの花が今は満開となっている。淑やかなキンポウゲ科のムラサキケマンソウ。園芸センターの周りの民家にはシバザクラが満開。
 園芸センターでは出盛りを迎えたトマト、ヤマイモ、竹の子。八王子のトマトは4月、5月がいちばんうまい。朝取りの野菜をたっぷり買い込み、遅い朝ご飯は野草の天ぷらとともに春の味わいを楽しみました。
写真上から、ショカツサイ
スミレサイシン
カンゾウ
下、ケマルバスミレ
セリ摘みは水のある場所が狙い目
初夏にはみかん色の
イチゴが楽しみな
モミジイチゴ
写真右から
カントウタンポポ、
カンスゲ、
ムラサキケマンソウ




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