2005年3月13
沼勝浦朝市
千葉県勝浦市
目次市場魚貝類図鑑
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当日、日本の農家の昔ながらの季節の産物、味わいが楽しめます。外房の春の代表的な野菜が菜の花
外房名物のツチクジラの「たれ」
貝殻の模様からマシジミではないかと思われた
何度も来ているのに一度も食べていなかったのが市場名物きんつば、きんつばというけれど今川焼きです
とても普通のしょうゆラーメンでもこれがうまい。下町通りの中央にある「いしい」は市場のおばちゃんたちおすすめの店
05/03.13 千葉県勝浦01

 まさに春到来かというぽかぽかと、風も軟らかい日が来て、準備万端、海への旅に出た。と、一夜明けると西高東低の気圧配置で冬に逆戻りしていたのだ。早朝3時45分、出発する。今回の旅は家族連れ、行楽気分を味わう旅なのにこの鋭い冷気の底で震え上がってしまった。
 クルマのエンジンをかける、初めて使うETCから「カードを入れてください」の声の案内。差し込むと「ETCは使える状態です」とのことだ。でも本当にゲートは開くのだろうか? 八王子インターに入り、緩やかなカーブからゲートをくぐるとき緊張はピークを迎える。ゲートが持ち上がり「料金は600円です」と音声を聞いたときには家族全員で拍手をしてしまった。
 日曜日の早朝ではあるが中央高速はがらがらである。高井戸のゲートをくぐるときも、ETCがあるのですいすいと通り過ぎる。不思議なもので料金所にとまっているクルマを見ているだけで優越感を感じる。そんな自分に向かって「アホアホアホの助」と頭をどつく。こんな自分がとても恥ずかしいのだ。
 湾岸習志野から市原、勝浦方面に曲がり、少しするとフロントガラスになにかふわりとついた。これがやや薄暗く明けてきて山の中、大多喜への急カーブイロハ坂を下りる頃には明らかな雪模様となる。遠くに見える大多喜城も雪にかすんでいる。5時半過ぎに市原から296号に入り大多喜を過ぎて勝浦市武道大学前を過ぎたのが6時15分。
 考えて見ると初めて勝浦に来たのは20年以上前になる。当時の大多喜超えの山間を走る道路は狭くて、まっすぐな区間はほとんどなかった。その上、工事工事で舗装すらされていない場所すらあった。勝浦の街を見下ろしたときのほっとした思いが今も記憶に残る。

 勝浦市街に6時半に着いたものの朝市には早すぎるだろう。夏なら5時にはほとんどの店(店ではなく個人と言うべきか)が品物が並んでいる。真冬なら8時過ぎではないか? それが3月の今日ならいつ頃に市場すべてが店を広げているのか? 家族を先に朝市に向かわせて、一人で勝浦魚市場に行ってみる。見慣れた墨名堤防が右手にながながと続いて青灯があり、左からのびてきている赤灯堤防が見える。この景色は20年以上変わっていない。ただ見晴るかすかぎり人影はなく、山から雪を含んだ風が吹き下ろしてくる。人っ子一人いない市場を見て早々に朝市に向かう。

 勝浦の朝市は月初めから半ばまではやや南側の下町通りで、月中から月末までは仲町通りでひらかれている。どちらかというと下町通りは商店街から離れているのに対して、仲町通りのほうが商店街の真裏であること、店を出す道が長いこともあって月の後半に行く方がおすすめである。

 下町通りの朝市に駆けつけると、まだまばらな朝市の中間地帯で家族が震え上がっている。その脇で店をひらくおばさんが、「こんなことは冬にもない」と言いながらかぶった手ぬぐいをとり雪をはらって苦笑い。
 家族が見ていたのは、「きんつば(今川焼き)」の屋台である。まだ店を設置したばかりで「30分くらいしたら来るといいんだって」と娘が足踏みしていて、ゆるりゆるりと行き着くところまで歩く。店をひやかしていくと、しきりに声をかけてくる人、ただただにこやかに座っている人など様々である。
 勝浦の朝市は農産物がおもな売り物。見事な菜の花、紅菜苔(コウサイタイ 中国野菜)、水菜、キャベツ、カリフラワーにブロッコリー、トマトや根しょうが、椎茸に田芹。うるち米、もち米、もち粟。ささげ、大豆、落花生。手作りのコンニャクに漬け物、餅。餅は赤、緑、黄、白とどれを買おうかいつも迷う。木瓜のつぼみの付いた枝や、生け花、野菜や花の苗。どれも魅力があるし、うまそうだ。
 水産物は鮮魚にはあまり見るべきものがなく、いつもあるカツオ、めじまぐろ(メバチマグロの小さなもの)、イセエビくらい。あとは野菜を広げていた女性が珍しい大振りなマシジミらしいもの、もくぞうがに(モクズガニ)。むしろ干物屋さんのほうが面白くて鰹節を削って売る店、カツオのはらも、クジラのたれ(ツチクジラの肉に塩をして干したもの。外房太海などで作られている)、イワシのごま漬け(これは九十九里の名品)、カサゴやアジの干物、丸干し。みなうまそうである。
 ほかには和菓子、赤飯やおこわ、鯛せんべい、手作りのお総菜。珍味や佃煮の店、千葉県産の海苔もある。アクセサリーや工芸品の店もあるがこちらは残念ながらろくなものがない。
 ひととおり見終わっても7時を過ぎたばかり。あまりの寒さに甘酒を飲み。やっと焼き上がったきんつば(今川焼き)をたっぷり買い込む。子供たちは「うまいうまい」とあっという間に12個のきんつばを食べ尽くす。

「一度、クルマのもどろうか」と話していると、そこから南に小さな鳥居があり、階段が小高い山上まで続き。それが、ほとんどハシゴのように見える。子供たちに登れと号令をかけて、失敗を悟る。家人は足の怪我で満足に動けない。今まさに足が痛いと立ち止まっているのだから、子供たちに続くのは誰なんだ。講談、曲垣平九郎を聞くのも不愉快というかいやなのに、この階段は彼の愛宕神社にも負けぬ急峻さではないか。仕方なく登りました。当然、手摺りにしがみついて一歩ずつ。やっと上りついたら小さなほこらが3つ。なかのお稲荷さんに4人でお参りする。小銭が残り少ないので(こんなところで書くのも変だが、朝市に来るときには小銭をたっぷり用意しよう)10円ずつの賽銭をあげて、下りるのがもっと怖いのは言うまでもない。下りると雪はもっと激しく降ってきている。そんなとき、ふと見ると餅を売っているおばさんがポワ〜ンと湯気を立ててラーメンをすすっている。家人に「いずこの店でお取り寄せか?」と問わせると朝市通り真ん中の食堂、すなわち我々の目も前の「いしい」という店からだという。当然だけれど、すぐに飛び込む。そのラーメンのうまかったこと。汁一滴も残さずすすったのは昔ながらのしょうゆラーメンでした。「いしい」の店内には活けのマアジが泳ぎ、サザエのカレーなんていうメニューもあるけれど、それはまた今度のこととする。
 7時半を過ぎると通りも賑やかになってきた。家族はもう一度、見回って、シソの実の塩漬け、水菜の塩漬け、お赤飯とおこわ、食堂「いしい」ですすめられたおばさんから青のりの入った餅と白餅。菜の花、紅菜苔、わけぎ、ニンジン。珍味屋さんでニンニクの珍味、しらすを商っている店で梅風味のしらす、カツオのはらも、太東崎からきた岩のり(海の博物館の菊地則夫さんに見てもらってヒラアオノリと判明)などを買う。持ちきれないお土産をクーラーに入れてケータイの時計が8時過ぎ。まだまだ時間はあるのだ。



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