2005年4月17
内房富津の港旅01
萩生港
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05/04.17 内房 01

 早朝3時半に我が家を出る。外は芽吹きの香り立ち、暖かい。
 千葉に入り高速から見ると地上がなんだか明るい。これは田に水が引かれて水面がてらてら光っているのだ。うっすらと霞がかかっているのもいいではないか。高速は空いていて5時半過ぎには木更津北を下りる。舘山道は木更津から途中工事中であり、木更津北の次がどこなのかわからなかったので念のためにおりたもの。
 ゆっくり走って竹岡駅を見てすぐのところが天羽漁協、萩生港。人影まばらな港におばさんが一人船を待っている。沖合は水蒸気で白く濁って見える。波のない穏やかな春の海だ。船揚場の八重桜の紅色が満開で美しい。
「もう帰ってくるんですか?」
「そうだね。うちは昨日網仕掛けてっからね。もう帰ってくるよ」
 今とれているのはクロダイ、カワハギ。もう少しするとマコガレイに代わるという。
 と話していると千葉の海人つづきさんが顔を見せた。
 今回の旅の案内は、つづきさんによる。日々旅人のつづきさんからお土産を頂き、沖縄の写真や持ち帰った甲殻類などを見せてもらっていると、どこまでも続く鏡のような海面、そのテレテラした向こうから船のエンジン音が聞こえる。
 その小型の船が持ち帰ったのは腹をぱんぱんにふくらませたクロダイである。40センチ前後で型が揃っている。当然、雄性先熟(子供の時には雄であり、大きくなると雌になる)のクロダイであるので総て雌の水揚げとなる。ここでは活けでの水揚げだ。
 そしてほどなくもどってきたのがマダイの船。生け簀に入りきらないほどの乗っこみ(産卵回遊)マダイである。ご夫婦で漁をしている模様だが、後からお手伝いに来たのがご老人と小学一年生の男の子。彼は一人前にロープを持ち、カゴをひっぱる。その可愛らしいこと、大きくなったら漁師になって欲しいな。
 萩生の港の船はほとんどが刺し網漁をやっている。この時期にとれるのはクロダイ、マコガレイ、ヒラメ、カワハギなど。スズキやマイワシねらいの巻き網も2隻ある。
 港の南北に2カ所、船揚げ場の斜面があり、南側の船揚場ではもどってきた船がワイヤーで引き上げられている。つづきさんに誘われて南側の船着き場に行ってみる。
「おはようございます」
 と挨拶すると会う人総てから気さくな笑顔が返ってくる。
「何しに来たの」
 と聞かれて「港と漁を見に来ました」と答えるととれたばかりの大マコガレイを見せてくれる。
「今がいちばんうめぞ。値段もたけーし、キロ6000円から6500円もする」
 マコガレイは1〜2月を除いてだいたい味はよいが、いちばんうまいのはこの4月中旬頃からだという。この萩生のマコガレイ、みな40センチ前後もあり、身が分厚く盛り上がっている。ときにヒラメと見まごうものがバケツから尾をゆらゆらさせている。このクラスは築地でも上物を扱える店にしかこないだろう。
 刺し網の掃除をするのを見ながら魚貝類の呼び名を聞いて歩く。また、つづきさんはモミジガイ(ヒトデ)を拾っている。見せてもらうとヒトデの中央に二枚貝や巻き貝がぎっしり詰まっているのがある。
 刺し網に真っ白な魚の骨が姿のまま引っかかっているのがある。このほんの少し残った肉に着いているのが小さな甲殻類。ヨコエビの仲間だろうか? マダイでも、カサゴでも一晩で骨だけになってしまうのだという。
 また大量のイシコ(ナマコの仲間)が着いている。これをここでは「よぼそ」と呼ぶが、バケツに何杯もの「よぼそ」はなんとも気味が悪い。これも網を掃除する内に足下に堆くつもっていく。
 萩生の漁師さんはとても気さくで親切である。魚を見に来たというと、こんなの見たことあるかと投げてくっれる。「くろぶた」と呼ばれているのはトビエイ。この日大量にあがっていたボウシュウボラは「ぽっぽ」もしくは「ほらがい」と呼ばれている。この「ほらがい」というのはどうも出荷のための言葉らしい。
「てい、持っていくか?」
 と表面を真っ白に変色させたマダイを頂くが、これは遠慮させてもらう。
 この萩生の言葉がなんだか聞き取れない。こちらに話しかけてくれるのはわかるとしても地元の方どうしはまるっきりわからない。それでも漁師さんたちの顔はにこやかで優しげである。まりかみ合わない会話をしていてもなんだかほんわりあったな気分になってくる。
 8時半につづきさんにせかされて萩生を後にしたが、まことに楽しい時間であった。



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