2005年4月7〜8日
大坂の旅 01 大坂まで
目次市場魚貝類図鑑
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05/04.07 大阪 01

 大坂に行ってみたいというのはここ数年来の念願であった。市場を見る旅を始めて、もう20年以上になるが、どちらかというと生物としての魚貝類や珍しいものに惹かれていた。それがなぜだか、ここ数年で魚貝類と人との関わりのほうに興味が移ってきているのだ。高度成長期以来、凄まじい勢いで自然破壊が進行しているが、それに負けぬ早さで消えているのが古い町並みや食・生活習慣(「ケ」の営み)ではないだろうか? そんな今日にあって、まだまだ各地には「捨てきれない生活の断片」が残っている。その消せないほど多くの「地」の食習慣というか魚貝類の利用法などを残しているのは、どこだろう。それは各地の市場ではないどろうか?
 四国育ちにとって大坂というのは言葉からしても身近な都会である。四国人なら上京して東京弁に慣れるには苦労するが、大坂弁ならほんの数日でこなせるはずだ。就職や大学進学というのも関西圏に出る人が多い。テレビ番組からして関西のキー局のものを見ているわけだし、夕方のニュース、日曜のワイドショーなど、ほとんどが大坂発。また夕方に見るのは松竹新喜劇、吉本新喜劇の岡八郎の「首振り」だったり、曽我廼家五郎八とかしまし娘のホームドラマ。「てなもんや三度笠」、大村昆の「番頭はんと丁稚どん」、「とんま天狗」などだろう。すなわち四国で子供時代を過ごした身に大坂はなんだか懐かしいのである。
 ただ、この大坂、街の破壊振りは凄まじいのだ。心斎橋や難波など、むしろ東京よりも根こそぎ古い町並みを消滅させてしまっている。また建築物や地下鉄、地下街などインフラには見た目には微塵も猥雑さはない。見た目に大坂はきれいすぎる街なのだ。では大坂らしさが残っているのはどこか? それは「市場」「商店街」ではないだろうか。こんなところは絶対に観光客は行かないだろう。
 今回の旅のテーマはなぜだか懐かしい「大坂らしさを探す」である。

 多摩地区にある我が家を出たのが9時半過ぎ、近所のバス停まで約10分ほど。ローソンの前で娘とここでお菓子や飲み物を買うべきか話していると、なんだか旅に出るという気分になれない。道すがら咲く満開近い桜となま暖かい風。これでは上着は無用ではないか? 甲州街道でバスに乗り、京王八王子駅に9時50分着。コンビニでお菓子と飲み物を買いバス乗り場に着いたのが10時前。バス待合室はなかなか混んでいる。「大阪に行く人が多いんだな」と思っていると、ほとんどが金沢行きに乗る人たち。10時17分にトレンディ号が入ってくる。乗り込んだのが20分。これから7時間半の窮屈なバス旅が始まる。
 発車は10時半、明かりが消されて、窓にも分厚いカーテンが引かれている。狭すぎる座席で眠るに眠れず、うとうととして何度も時計を見る。トイレの近くなので眠りに落ちそうになると肩をどつかれる。5時半過ぎにバスが動かなくなる。緊急自動車のサイレンの音。ディーゼルカーのゴロンゴロンがやけに頭に響く。6時近くにやっと通常の走りになる。ここで20分ほど到着が遅れるとアナウンスが流れた。カーテンで締め切ってはいるが夜が明けてきたのがわかる。微かに見える車窓に雨粒が見える。カーテンを締め切ったまま高速を降りて、バスがなんども道を曲がるので気分が悪くなる。
 小雨模様の東梅田の地下鉄入り口前に到着したのが6時半。梅田の地下街に下りると、足早に過ぎていく人の間に無宿の人たち。説明は出来ないのだけれど、この地下街の空気がなんだか新宿や銀座とは違っている。また御堂筋線梅田駅は何度も利用している駅なのだけれど、その空間の広さに大坂らしさを見いだしてしまう。
 御堂筋線梅田駅から本町、地下鉄中央線に乗り換え阿波座に、千日前線に乗り換え、玉川駅には7時過ぎに到着。地下鉄乗り継いでいるとまったく、どこに向かっているのかわからなくなる。
 出ると雨。街は目覚めていない。大坂ならではの広い道路、通りかかったバスの乗客は少ない。
 大阪中央卸売市場に向かう途中、500ミリのペット飲料が80円というのを見つけて娘が大騒ぎする。「大阪は物価が安い」と感心しているのだ。途中、ファミリーマートで傘を買う。玉川駅から中央市場までは10分足らず。地下鉄駅を出た道を歩き、向かい側に明らかに仲卸の店が見える。しかしこれは場外である。そして大きな橋が正面に見えてきた。右側に巨大な建物、がらんと空間が広がっている。そこに入ってくるクルマを整理する警備員の方がいて、「『市場』はどこですか?」と聞くと「どこいきます」と気さくに聞いてくれて、そのクルマの流れていく先を手差して教えてくれる。まったく大阪の人は親切でいいな。歩く内にさっきの警備委員とのやりとりを聞いていたのか背広姿の紳士が「こっちですよ。市場のどこいきますか」と結局入り口まで一緒に歩いてくれる。
 手前に肉、お菓子、乾物に道具類を売る店の集まる棟があり、その先に巨大な切り妻造り鉄骨の建物があり、ここが中央卸売市場であるらしい。
●以後続く



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