2005年4月7〜8日
大坂の旅 03
つかみずし
ゑんどう
目次
市場魚貝類図鑑

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出てくるのは5個ずつ。つかんだ酢飯は丸に近い楕円。味ははんなりして、口の中ですーっと消えてなくなる。これ絶妙なり!
卓上にしょうゆはない。このタレをネタの上から塗って食べる。このタレ甘すぎないのがいい
中学生の娘をして人生最高の寿司と言わしめた。穴子である。穴子はとろっと甘く、挟まれた海苔と三つ葉がいいアクセントとなっている
05/04.07 大阪の旅03

 今回、大阪中央卸売市場に来たのは魚貝類を見るためでもあるが、それ以上に是非とも見てみたい食べてみたいと思ったのが場内にある「つかみずし」である。
 江戸時代の始め、今で言う魚市場というのは「雑喉場(ざこば)」と呼ばれた。これは乾物である昆布や、綿花の産地であった泉州への肥料としてのイワシ、ニシンなどに対して、淀川水系の淡水魚、ちぬの海(現在の大阪湾)でとれた種々雑多な鮮魚たちをして「雑魚」とし、取り扱う場所を「雑魚場」と呼んだのだろう。大阪市西区京町堀、江戸堀付近にあった雑喉場は昭和6(1931年)年に現在の福島区野田の地に移ってくる。その移転前の雑喉場に明治40年(1909年)に誕生した独特の握り寿司が「つかみずし」である。この寿司、『ゑんどう』の今の先代(2005年現在)が考案した。
「つかみ」ということで温かい酢飯を、ふわりとつかみ取りネタをのせて客に出す。当然、市場という慌ただしい場所柄もあって、炊きたてのご飯で、すぐ酢飯に仕立てたものを素早く客に出す工夫から生まれたのであろう。
 これが素早く気安いだけではなく「味わいも独自性が感じられうまいんだよ」と教えられたのはいつの頃だろう。確か20年以上も前。それからなんども機会をみて食べてみたいと思っていて、やっと今回たどり着いたのだ。

 中央卸売市場の大きな建物の脇に飲食店ばかり並ぶ一角がある。この一番市場寄りにあるのが『ゑんどう』である。初めて入る寿司屋というのは緊張するもので、「えいや!」と手動の引き戸を開ける。暇、立ち止まって店内を見回していると、「こっちどうぞ」と気さくな声で4人がけの席に誘ってくれる。誘ってくれると言うのは大げさで入って右に、カウンターがあり、その奥に職人さんが握る場所。左に4人がけのテーブルが4つ。その奥から2番目なのだから数歩で座席につく。
 卓上にはうっすらと紅にそまった酢漬けのしょうが、たれ(これはなんというのか聞きそびれた)、楊枝。「このお店は創業何年くらいですか?」と聞くと、丸顔の飯田蝶子似のおばさんが「100年を超えます」。「注文はどうすればいいですか?」と重ねて聞くや、「一皿5個ずつ種類を変えて握りますよ」というので、まず一皿。すると自信がないが、カンパチ、メバチマグロ(中トロ)、白身であるがマダイかも知れないもの、ムラサキウニ、穴子がすぐに出てくる。
 箸がついてきたので、カンパチらしいのを食べてみる。娘がたれをつけるとおいしいよ、というのでつけるとこの甘すぎないたれがとても寿司に合う。よく見ると卓上にしょうゆが見あたらない。
 ふわりと握った酢飯はやや甘く酢は控えめ、人肌より温かい。しかも上にのっかっているネタも、飯の暖かさにも関わらず、カンパチなどまったくくせがない。ネタもいいものを使っているのである。さすがに市場内の店で厳選されているのだ。
「これはいかん」と思ったのは、これなら際限なく食べてしまいそうに思えたからだ。早食い気味のこちらはいいとしても、いつも食べるのが遅いと注意されてばかりの娘の皿から、もう3個の寿司が消えている。これから「食い倒れ」を開始する初っぱなからこれでいいのだろうか? 「次、出しましょか? 好きなの言ってくれてもいいですよ」というのに娘はすかさず穴子だけの皿を注文する。「生まれてきていちばんおいしい穴子」だというのだ。こちらはそのままお任せでお願いする。
 待つ間もなく出てきたのがウナギ、アカガイ、生のホタテ、メバチのトロ、サヨリ。娘のところには穴子が5個。穴子だけは「つかむ」というのではなくバッテラのように長方形に近い。この穴子、煮たもので、酢飯の間には三つ葉と海苔が鋏んである。ほどよい仕事がしてあるのだ。アカガイもサヨリも鮮度がよく、この生の素材が酢飯によく合っている。面白かったのはウナギである。皮目の味わいは確かにウナギそのものであるが、酢飯がはんなりしているのに合わせるように焼き加減、たれが上品なのだ。
「つかみずし」というのは実際に食べてみると外見以上に江戸前握りとは隔たりがある。江戸前握りがネタと酢飯だけでどこか求道的であり、余分なものをそぎ落として単調なのに対して、こちらはむしろ華やかで広がりのある味わいである。こればかりは実際に食べないとわかってもらえそうにないが、「福々しい味わい」といったらいちばん「つかみずし」を言い表せている気がする。

 当日は不躾にも寿司の撮影をさせてもらったが、「どうぞお撮りください」というほどに気安く、そして和やかな一時であった。この気安さはまず関東にはないだろう。また今回食べた寿司は二人で20個、すなわり4皿であり、1皿1000円也で会計は4000円。ネタのよさや味のよさを鑑みると安い。たぶん「大阪に来ることがあって、ここに寄れない」ということがあると、寂しい思いにかられそうだ。



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