2005年6月17日
福島の旅 03
福島県いわき市
久ノ浜 底引き網漁
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市場魚貝類図鑑

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この時期もっとも水揚げが多いのはスルメイカ
ミズダコのカゴに入っていたらしいどんこ(エゾイソアイナメ)
カゴ漁でとれた大きなミズダコを船から投げて受け取る浜のお姉さん
底引きであがったミズダコとヤナギダコ
とどき(サブロウ)は東北太平洋岸のうまい魚
とどきをいただいた新章丸のおかあさん
05/06.17 福島県いわき市久ノ浜03

 刺し網を見ている間に8時近くなっている。大急ぎで競り場にもどるとすでに底引きの選別が始まってしまっている。青い底の浅いカゴにマダラ、ヤナギムシガレイ、マコガレイ、マガレイ、ヒレグロ、ミギガレイ、アイナメ、カナガシラ、ケムシカジカ、エゾハリイカが入っている。
 そして奥に見つけたのがサブロウ。「とど(DU)きだね。こんなのいくらにもならないよ」とサブロウを撮っているとお婆さんが笑っている。「ととき?」「とどき」「とどきですか? と(ど)き」というのに何度も「とどき」だと言い換えされる。どうもこの辺りは早口で音が鼻に抜けていくのだ。それが聞き取りづらい。
 すぐ脇に大量のスルメイカがあり、港の前面にはミズダコがぐにゃっと広がっている。これに盛んに海水をかけ、ぬめりをとってカゴに入れていく。タコでもやや赤茶色のものがあり、「他じゃなんて言うか知らねーけど、あまだこ」。「ヤナギダコかな?」と裏側の文様を見ていると「そうだ。どうしてヤナギダコっていうか知ってるか?」と聞いてくる。「やなぎっていう高級な魚のいる場所にこいつがいるんだ」。この「やなぎ」というのはヤナギムシガレイのことだという。
 どうもこの日は普段より魚貝類の種類も少ないらしい。それでも初めて来たものにとっては凄まじいばかりの種類。これをいちいち地元での呼び名を聞いているうちに、沖合から船が入ってきた。船の生け簀から上げられているのは大きなミズダコ。ネットに入ったものを網であげて岸壁に放り投げる。それをたくましくも受け取るのは元気なお姉さんたちである。深いカゴで4〜5杯としていったい何キロくらいだろう。1カゴ20キロとして、80キロから100キロにもなりそうだ。これはタコカゴ漁の船。カゴにはヒメエソボラ、どんこ(エゾイソアイナメ)、ケムシカジカなども入っている。そのうち岸壁にどさりと置かれたのが、つぶ(ヒメエゾボラ)であるが、選別していなくてキタムラサキウニ、ヨツバモガニ、種のわからないクモガニ、イトマキヒトデなどが混ざっている。これをよく見ていると、メンコガニらしきカニがごそごそと生きてはい回っている。

 ミズダコの水揚げされている生け簀近くにマアナゴのカゴがある。何気なく「これなんですか?」と聞いてみるとやはり「はも」だという。競りは南から始まるようだ。サブロウを買って帰りたいものだと思っていると。「いさばやさんに頼んでみろ」と言われる。「いさば」とは仲買のことであるという。広辞苑で調べると「五十集」と書き魚市場のこと、また「五十集屋」というのは魚貝類を扱う業者のことだとある。
 サブロウのあった南の端まで行き、サブロウをよく買っているという『丸十』という仲買さんに頼むように教わる。丸十さんは40代くらいの女性で、珍しいことにサブロウを集めていて、お願いすると快く引き受けてくれた。
 ところが、競りを見ているときに、サブロウの食べ方を聞いた女性が、「とどきならあげるから、持っていって」と競り場に置かれていたサブロウを渡してくれる。サブロウを手に取り、おろし方、また刺身にしてみそと一緒にたたいて「なめろていうんだ」と懇切丁寧に教えてくれる。この女性、『新章丸』さんにはまことにお世話になりました。サブロウは持ち帰ってすぐに食べてみたが、やはりこの魚はうまいというのを再確認した。トクビレ科であり、あの北海道の八角(トクビレ)に近い味わい。しかも値段は10分の1ほどしかしない。
 またごろんとホッケが1匹カゴに混ざっている。「これおいしいよ」と、これもまたいただく。ぼんやり競りを眺めている間にも「どこから来たの」と聞かれ東京からというと「塩屋崎に寄って行きなさい。美空ひばりの最後の歌(碑)がみれっから(美空ひばりに「塩屋崎」という歌があるのだ)」とか、「波立寺(はったつじというらしい)に寄って帰りなさい」とか親切に教えてくれる。

 なんとも優しき人多き土地柄であるか。なんだかここにいるのが楽しくなってくる。

 競り場には他には少ないながらアカムツ、そしてボウズイカ、イイダコなどが見られた。ここに、ほっき漁や磯での漁があるとしたら、どれほどの種が見られただろう? ちょっと残念な旅ではあったが得たもの多しである。



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